本研究では、これまでに検討してきた水溶性薬物キャリアーの基礎的知見と技術をもとに、細胞内部にのみに見られる低pH環境とグルタチオン転移酵素(GST)に応答して2段階にて抗ガン剤放出場所とタイミングを制御するプロ(プロドラッグ)型インテリジェントナノキャリアを創製することを目的とした。抗がん剤ではなく安価なp-nitroanilineをグルタチオンに結合させたグルタチオン誘導体(GS-pNA)を合成し、UV-Visスペクトル測定によるGSTとの結合実験を行った。その結果、最大吸収波長400 nmでの吸光度が一定濃度以上で増加し、GST添加濃度に対してシグモイダル曲線を示した。このプロットを非線形カーブフィッティングしたところ、Hillの式が適用でき、GSTとGS-pNAは協同的に結合すると考えられ、GSTの二量体に存在する4つの結合部位が関与していることが示唆された。そこでGS-pNAがアポトーシスを誘導する可能性に鑑みて、Hela細胞を用いた細胞毒性試験を行ったが、抗がん剤と同程度の効果を得られなかったことから、GS-pNAが細胞内に取り込まれなかったことが細胞毒性を示さなかった可能性が高いと考えられた。 そこで、細胞内取り込み可能なキャリアとして、ポリグリセロールデンドロン(PG)と二本鎖脂質を結合したPG-脂質結合体を新たに合成し、これをリポソームとしてから抗がん剤をモデルとして内包し、Hela細胞への取り込みを蛍光顕微鏡観察から評価した。その結果、24時間後にHela細胞が球状に変化し、かつ細胞内に赤いスポットが観察されたことから、リポソームが細胞内へ取り込まれ、細胞毒性を示すことが考えられた。 さらに、別のアプローチとしてビタミンEを疎水部に集積させた両親媒性ポリマーを調製し、同様に細胞内取り込みが可能であることを確認した。ビタミンEによる抗酸化性も見られた、
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