本研究では、「核内タンパク質の翻訳後修飾が遺伝子発現に向けて重要な役割を果たす」という核内コードと呼ばれる核内事象を制御するキャリアと、外来遺伝子を核内へ導入するキャリアを併せたシステムを創製し、細胞の分化・脱分化制御等の再生医療分野で意義深い生命科学基盤技術の確立を目指す。基礎的には、DNA二重らせん溝へのアルキル鎖の巻き付きによる新しい核酸修飾法も提案する。 本年度は、DNA二重らせん溝へのアルキル鎖の巻き付きによる新しい核酸修飾法を昇華させ、「DNAモノイオンコンプレックス」の新概念を提唱した。そのため、昨年度にDNAの一分子修飾に成功した「ポリエチレングリコール(PEG)の分子末端にモノカチオンとしてブチル化イミダゾール基修飾したPEG」の分子設計に改良を加えた。具体的には、アルキル基末端へ第一級アミド基を導入することにより、水素結合の寄与も考慮し、DNAとの複合化における安定性の向上を図った。得られた「モノイオンコンプレックス」をマウスの脛骨筋へ局所投与すると、臨床応用されているnaked DNA 及び一般的なin vivo トランスフェクション試薬であるjet PEI と比較し、有意に高い遺伝子発現効率を示した。これらの結果は、約50nm前後のモノイオンコンプレックスの微小粒径による目的組織への拡散性の向上効果を示唆している。つまり、モノイオンコンプレックスの形成能と安定性の向上がin vivo 局所遺伝子発現効率を高めたと考えられる。 本研究成果である分裂能の低いマウス脛骨筋への遺伝導入の成功は、in vitroで通常使用されている培養細胞株とは異なり、核膜が保存されている細胞へ外来遺伝子を導入可能なことを示している。従って、核内事象制御のためのツールの獲得に成功し、細胞の分化誘導の実現に近づいたと考えられる。
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