研究概要 |
本研究では、微小流路(Microfluidic device)を用い、(i) 糖尿病や心臓疾患で見られる赤血球凝集などにおける異常な赤血球流動現象の特徴、特に血管壁近傍の血漿層の厚さ(red blood cells free layer,またはcell free layer, CFL)を定量化すること、また (ii) 血液疾患における異常な赤血球流動に起因する末梢循環不全において、人工赤血球を混在することにより末梢への酸素供給が促進される可能性について検討すること、以上の二点を目的とした。測定系のセットアップを構築し、微小流路(内径25um)を用い、高分子量デキストラン添加によって赤血球凝集モデルを作成、CFLを計測した。凝集度の増大につれ、CFLは増大し、赤血球が管壁に接触する頻度も低下した。血管内皮への赤血球の接触は、血管壁に強い剪断応力を与えるので、凝集亢進は、NO産生にも影響する可能性がある。CFLの増大は、内皮由来NOの捕捉を低減させる方向に働くことも考えられる。赤血球から血管壁への酸素輸送は、CFL増大により低減されることが予想される。今回の赤血球凝集はデキストランの添加によって惹起されたが、臨床的にも凝集が亢進する病態は、観察される。このような状況において微小血管内でCFLが厚くなれば、分岐点におけるplasma skimming(血漿分離)が助長され、赤血球が均一に組織微小循環に到達せず、酸素供給にも影響が出てくることが容易に予想できる。この場合、もし人工赤血球(ヘモグロビン小胞体)があれば、ヘモグロビン小胞体の粒子径は赤血球の1/30程度と小さく、CFL層に均一に分散することが予想されるので、病態において酸素供給を改善することが予想出来る。
|