研究課題/領域番号 |
24650308
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中澤 公孝 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90360677)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 可塑性 |
研究概要 |
本研究の最終的な目的は、リハビリテーションにおける患者のやる気を高める言葉かけが帰結に与える効果とその脳神経科学的機序を明らかにすることであった。この目的に迫るために、本申請課題では運動課題学習過程における課題成功時の指導者による言葉かけ(賞賛)や金銭的報酬が中枢神経の可塑的変化を促進するのか否かを検証することを目標とする。既に先行研究によって確立された脊髄反射学習課題を用い脊髄反射回路の可塑性が言葉や金銭的報酬による動機づけの有無に影響されるのか、神経生理学的手法を用いて実証しようとするものである。当該年度は健常者を対象とし、1)金銭と言葉による成功報酬を伴う運動学習がそれらを伴わない運動学習に比べて学習効果が高いのかを検証すること。そして、2)その時の脳活動、特に報酬系の活動亢進があるのかを明らかにすること、が目標であった。これらの目標1)に関して、第一に健常者を対象とし、ヒラメ筋H反射がトレーニングを通じて増減させることができるのかを確認する実験を行った。その過程において、脊髄の相反性抑制回路が特異的に活性化され、しかも可塑的にその活性度が変調するのかという研究課題が生じた。そのため、当初のトレーニング実験を一部変更し、この新たに生じた研究課題を検討することとした。現在のところ、まだ結論に至っていないが、トレーニング無しで、脊髄の相反抑制回路を活性化できる被検者とトレーニングによってできるようになる被検者がいることが明らかとなった。次年度はこの神経回路にターゲットを絞り、賞賛や報酬がこの回路の可塑性を促進するのか否かを明らかにする実験を行うこととする。脳内活動に関しては、MRI検査装置の中でH反射を誘発し、その際の脳活動をfMRIによって記録できることを確認した。まだ予備実験の段階であるが次年度の本実験のための準備が完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ヒトの運動学習課題遂行中の結果に対する褒め、賞賛などの言葉かけ、あるいは金銭報酬が脳の報酬系を腑活し、それが中枢神経系の可塑性を高めるという仮説を検証することを目的とする。この仮説を検証するための実験系として、Wolpawらが確立した脊髄反射(H-反射)学習課題を用いる。脊髄反射増加あるいは減少課題実施中に一回ごとの脊髄反射結果を、検者からのほめ言葉や金銭報酬として被検者に与え、その効果を調べる。これを数週間行い、その前・中間・後の計3回MRI装置内で同様の課題を行っている際の脳機能画像を撮像する。これにより、課題遂行中の脳活動、とりわけ報酬系に関連する領野の活動とその変化を明らかにする。その結果と脊髄反射学習の達成度を合わせて考察することで、報酬系-大脳皮質-脊髄から構成される系を介して、最終的に脊髄反射の学習が成り立つのかを検証する。当該年度は、H-反射の学習課題を行う予定であったが、その過程で新たな発見があったため、トレーニング実験を延期し、新たな課題を設けた。それは、H-反射の学習に関連する脊髄内の神経回路がイメージングによって賦活され、H-反射振幅の変調に寄与する可能性を検証する課題であった。この点の検証は、本研究を発展的に進めるうえできわめて重要であり、当初の想定を超えるものであったため、研究計画を一部変更した。脳活動の記録については、MRI装置内で電気刺激によりH-反射を誘発しながら、fMRIを記録することに成功した。この計測は先行研究でも行われておらず、本実験に向けて予想された大きな壁を乗り越えることができたと考える。以上を総合的に評価し、当該年度の進捗状況はおおむね順調と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの進捗状況を加味し、平成25年度は、次の課題と目標に対して取り組む。 目標:1)健常者を対象とし、脊髄の相反抑制神経回路の賦活がイメージングトレーニングによって可塑的に変調するかを検証すること。2)金銭と言葉による成功報酬を伴う運動学習がそれらを伴わない運動学習に比べて学習効果が高いのかを検証すること。3)その時の脳活動、特に報酬系の活動亢進があるのかを明らかにすること。 目標1)については平成24年度の実験を引き続き行う。目標2)に関しては、1)の結果を受け、ターゲットとする神経回路の可塑性が報酬を伴う運動学習によって促進されるのかを検証する。目標3)については、実際の運動学習中の脳活動を記録する実験をさらに進める。 なお、脳卒中患者での実験は、MRI装置内での脳活動記録が、患者群ではむずかしいことがわかったため、取りやめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
特に高額機器の購入予定はない。主として、被検者謝金、消耗品など実験にかかる諸費用を本研究費から使用する。とりわけ、MRIでの実験が高知県であるため旅費に多くの費用がかかることが予想される。
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