研究課題/領域番号 |
24650310
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
西澤 公美 信州大学, 医学部, 助教 (90573379)
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キーワード | 視覚的情報 / こども同士 / 模倣行動 |
研究概要 |
本研究は,通常行われているセラピストとの1対1での理学療法に加え,こども同士による遊びを通した運動を行うことにより,被験者であるダウン症児がモデルの行動に注目しその動作を模倣することで,身体活動量と模倣能力が向上するかどうかを定量的に検討することを目的とした. 25年度の主な実施計画項目は,24年度に購入した3軸加速度計センサーを装着しての予備実験,被験者の選定,対象となる施設での研究の打ち合わせ,倫理委員会申請であった.これらの過程のうち,身体活動量の測定として3軸加速度計センサーを実際に装着しての予備実験を行った経過では,当初,児の両手と腰部にセンサーを固定する予定であったが,いずれもしっかり固定ができず,また児本人が取り外してしまう行為が相次いだため,3軸加速度計センサーでの動作解析は難しいと判断した.そこで,こども同士の遊びが身体活動量に与える影響をもっと簡単に,かつ定量的に測る目的のため,実際の粗大運動によって評価を行うよう計画を変更した.具体的には,対象となる児を歩行可能な児と,歩行不可能だが伝い歩きは可能な児の2群に分け,それぞれの群において①10m移動時間 ②各高さの台を用意しておき,時間内に上れた台の高さの最高値 ③模倣行動評価表 によって評価を行うものとして,研究計画を作成した.また,被験者の選定としては,療育センターに通所中の2歳から6歳のダウン症児とし,あらかじめ全対象者の運動・認知・言語機能評価を「新版K式発達評価」にて検者が実施し,各群の中でモデルに相応しい児を選定した.さらに,倫理委員会提出用の別紙研究計画書を作成し,実施施設の職員に対し説明を行った. 現在,倫理委員会提出書類を作成中であり,承認後に対象となる児の保護者に向けた説明会を開く予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
25年度の計画では測定の開始を25年度末を目標としていたが,その時期から遅れてしまった理由は大きく2つあると考えられる. 一つは,25年度に購入した3軸加速度計センサーを使用しての研究が難しくなった点である.3軸加速度センサーを,実際に児の両手足・腰部に着用した上で予備実験を行った際,成人を対象とした予備実験で行ったときとは異なり,児の体へのセンサーの取り付けがかなり不安定となり,また,児本人がセンサーを取り外してしまうという行為が相次いだ.その結果,3軸加速度計センサーを使用した研究計画の遂行は難しいと判断し,身体活動量を定量的に評価することにふさわしい指標を改めて考え直すこととした. 二つ目に,被験者の選定において当初の対象人数が確保できなくなった点が挙げられる.当初,療育センターに通所中で,独歩が獲得されたダウン症児10名以上を対象としていたが,普通保育園との併用や家庭の事情などにより一時的に対象人数が減少してしまい,研究デザインとして成立しない状況が生じてしまった.療育センターの職員と相談の結果,26年度から,療育センターを利用する児の年齢や人数が大幅に変わるとの見通しだったため実際の測定を26年度に行うこととした.ただし,独歩可能なダウン症児10人の確保は難しいため,独歩は獲得されていないが物に伝って歩くことはできる児も対象に含めるよう計画を変更した. また,これらの動作を行っている児の様子は,動作を定量的に解析することができるカメラを使用して収録し,歩行時や段差昇降時の動作軌跡,または筋トルクなどを解析することも加えて検討している. これらの理由により,当初の計画より遅れが生じてしまったものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
26年度では,倫理申請書を提出したあと,対象施設の職員及び対象者の保護者への研究説明会を開き,対象となる児を募集する.その後,実験を3か月以内で実施し,データをまとめることを大まかな目標とする. 具体的には,(1)対象となるダウン症児を①独歩可能な児 ②独歩は不可能だが伝い歩きが可能な児 の2群に分ける.(2)事前運動評価として,測定の1週間前に①10m移動時間(A群:独歩または走行,B群:伝い歩き),②各高さの段差上り動作,③模倣行動評価表(The Motor Imitation Scale,以下,MIS ; Stone et al. 1997.など)を行う.(3)A,B群ともに療育の始めにセラピストとの1対1による通常の理学療法を20分間行ったあとに,それぞれの群内で1対1のこども同士のペアを作り,一つの部屋にて30分間自由に遊ばせる.その様子は室内に設置されたビデオカメラにて録画し,模倣行動についてのちに検者が視覚的に確認をする.(4)事後運動評価として,測定直後に各群において(2)の①および②を実施する.模倣行動評価については測定中に評価を実施する. 各指標の測定方法は,(1)10m移動時間(秒):A,B群それぞれ3回ずつ実施し,最速時間を記録する.解析時にはこれらの時間を事前・事後にて比較する.(2)各高さの段差上り動作:5㎝,10㎝,15㎝,20㎝の高さの台を,立位,または腹臥位の肢位にて上り,最も高い段に上れた高さを記録する.解析時には,上ることができた台の高さごとに,5点,10点,15点,20点を付与し,事前・事後にて比較する.(3)模倣行動評価:MIS等の模倣行動評価表を使用し,自由遊び時間内の児の様子をビデオにて確認しながら点数をつける.解析時には,これらの点数を事前・事後(測定中)にて比較する. 実験デザインは横断研究デザインとする.
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度では418,510円の未使用額が生じたが,これは26年度の物品費と併せて,1式60万円相当のTrioカメラを購入予定であるためであった.25年度に購入したジースポート社の3軸加速度計センサーが使用できなくなってしまったため,児の身体活動の様子をビデオ録画し,定量的解析するという方法に変更し,Trioカメラをの購入が必要となったため,次年度繰越額が生じた.既に,デモ機にて成人を対象に実験済みで,本学旭総合研究棟2階に設置されている三次元動作解析装置より簡易に測定でき,可搬性であり,かつ比較的精度よく解析できることが確かめられている. 主な使用計画としては,キッセイコムテック株式会社のOptiTrack V120:Trioカメラセット1式である. その他,研究に関する学会参加や打ち合わせ等の旅費,消耗品費,研究助手への人件費に使用予定である.
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