小児の理学療法の臨床場面では,セラピストが患児に対して粗大運動を教示する際,模倣を促しながら1対1の環境で行うことが多い.一方,療育センターなど,発達障害を呈するこどもが集団で過ごす場において,こども同士で遊ぶことによりお互いの模倣行動に基づいて運動量が増加し得る可能性があることが示唆されている. 本研究は,通常行われているセラピストとこどもとの1対1での理学療法に加え,移動能力が相対的に異なる児同士の組み合わせを作り,お互いに遊ぶ場を設定することで,相対的に移動能力の低い児側が模倣行動を通してより高い移動能力を発揮することができるかどうかを定量的に検討することを目的とした. 本研究の結果より,移動能力の低い児側が模倣行動を通してより高い移動能力を発揮することはできないことが示唆された.しかし,模倣行動の前段階となる相手の行動観察に関しては有意に長い時間がかけられていたことが分かった.本人にとって新しい模倣を行う際には,必ず観察学習が必要であると先行研究で示されていることから,本研究を長期介入にて実施することにより,観察した相手の動作を模倣する段階まで到達することも可能と考えられた. 現在,療育施設での障害児療育の必要性は広く認められ,またその効果も報告されている.児がお互いの運動の観察を通して模倣能力を向上させていく環境として,このような療育施設はとても適していると思われる.療育施設においてより有益的に児の粗大運動能力を促すため,今後は,被験者数を増やすとともに,模倣能力を引き出すための長期介入なども考慮しさらなる検討を重ねていく必要性が求められる. 本研究ではメインとなる結果について有意差は認められなかったが,療育を受ける児の模倣行動を通した粗大運動機能について定量的に示した研究が国際的にも非常に少ない現状において,本研究は意義のある取り組みであったと考えられる.
|