本研究の目的は、運動中の生体に有益な作用を持つと推測されている心拍リズムと運動リズム間の同期現象が、心機能が低下している心疾患患者の運動中においてどのような生理学的反応を示すのか、またどのように発生するのかを検証し、心疾患患者に対する効果的な運動療法や評価指標の開発に貢献することである。 今年度は、研究対象となる心疾患患者のリクルートおよびコントロール群としての同年代の健常者のデータを測定した。また昨年度に測定した若年健常者における歩行中の心拍-運動リズム間の同期現象の生理学的反応に関する研究論文の投稿を行った。 若年健常者における心拍-運動リズム間の同期現象には、下腿筋の血流量の増加や1回拍出量の代替指標である酸素脈の増加など、運動中の生体に対して有益と考えられる効果が認められた。しかし、心疾患患者では対象者が少なく測定機器の故障等によるデータ欠損があったため、生理学的反応に関する統計学的検討は行えなかった。 上記の研究計画からの逸脱に対する費用および実績を補完するため、心拍-運動リズム間の同期現象の発生度合いに心機能の低下が関連するか検討した。心疾患患者と同年代、同性となるコントロール群において心拍-運動リズム間の同期現象の発生度合いを測定し、心疾患患者における同期現象の発生度合いと比較した。その結果、コントロール群と比較して、心疾患患者では心拍-運動リズム間の同期現象の発生度合いは有意に高い値を示した。また、最高酸素摂取量および最高酸素脈は有意に低値を示した。本研究の結果から、心拍-運動リズム間の同期現象の発生には、対象者の運動耐容能の低下または心血管系の機能低下が関連していることが考えられた。以上のことから、心拍-運動リズム間の同期現象は運動を継続するために生体が反応した結果観測される現象であると考えられ、運動療法における評価指標として応用できると考えられた。
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