本研究は,大脳皮質電気刺激によって惹起される光覚の実時間シミュレータを開発し,限られた入力数で脳に効率よく視覚情報を伝達する方法を検討することを目的としている.本年度は,「実時間光覚シミュレータへの光覚の時間特性の実装」「同時刺激数を制限する手法の検討」を行った. 光覚の時間特性の実装は,昨年度開発した小型実時間光覚シミュレータへプログラムすることにより行った.昨年度開発したシミュレータは,主にシリコン網膜(処理回路付きのCMOSイメージセンサ),FPGA,シングルボードコンピュータ (SBC),ヘッドマウントディスプレイ(HMD)から構成されるが,光覚画像の生成はSBCで行われているため,SBCに対してプログラミングを行った.実装した時間特性は,連続刺激に対する光覚の減衰と,減衰した状態からの回復である.過去に行われた光覚シミュレーションでは、このような時間特性は考慮されていないが,臨床研究では光覚が3秒程度で急速に減衰することが確認されている.この様な光覚の時間的変化は,知覚に大きな影響を与える可能性があるため,この点を考慮したシミュレーションは重要である. また我々は,光覚シミュレータに光覚の時間特性の実装を行った上で,頭部運動との関係の検証や,同時刺激数を制限する手法の検討を行った.一つの電極を刺激し続けると光覚は減衰するが,頭部運動による刺激位置の移動や,同時刺激数を制限した計画的な輪番刺激によって,減衰による知覚への影響が低減することが期待される.実際,研究代表者や研究協力者がシミュレータを身に付けて行った試験では,頭部運動や輪番刺激が有効であることを体験した.
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