頭部傾斜時の重力情報を左右2つの振動子を用いて皮膚表面へ振動刺激によって伝える傾斜感覚適正化装置(Tilt Perception Adustment Device、TPAD)の開発を行なった。 TPADのプロトタイプを用いた健常人を対象とした予備実験により、振動刺激部位は皮膚表面の中で最も感受性の高かった左右の口角部位とし、振動刺激周波数は100、160、240 Hzの中で最も傾斜感覚ゲインの増強効果及び左右差減少効果の大きかった160 Hzに決定した。以上の結果とれまでの使用経験から、①装置本体を軽量・コンパクト、②電源供給を充電式乾電池、③振動子を軽量・高出力、④振動子固定法を耳かけ式とした改良型TPADを5台作製した。 次に健常人20名を対象に、改良型TPADの装置を外した後の効果持続時間について検討を行なった。少なくとも2日間は傾斜感覚ゲインの増強効果及び左右差減少効果が持続することが観察された。さらに各種めまい患者6名を対象に、改良型TPADの臨床効果について検討を行なった。6名中5名は傾斜感覚ゲインの正常化、左右差減少、フワフワ感軽快など何らかの改善効果が認められた。現在、協力医療機関を募り、さらなる臨床データの収集に努めている。 並行して傾斜感覚の基礎データの蓄積を行なった。健常人に関してはこれまで少なかった高齢者や女性を中心に約300人、めまい患者に関しては各種めまい疾患を対象に約150名のデータが集まった。現在、これらのデータを基にして、健常人の年齢変化、性差を加味した基準値の設定、めまい患者の異常パターンの分類について解析を進めている。 今回の研究成果から、平衡感覚リハビリテーション装置としてのTPADの有効性が確認できた。今後、実用化に向けて展開していきたい。
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