研究課題/領域番号 |
24650341
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 熊本保健科学大学 |
研究代表者 |
佐々木 千穂 熊本保健科学大学, 保健科学部, 講師 (30569603)
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研究分担者 |
境 信哉 北海道大学, その他の研究科, 准教授 (30299804)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脊髄性筋委縮症I型 / コミュニケーション発達 / 意思伝達装置 / 文字学習 / 発達里程標 / 遠隔支援 / SNS / タブレット型PC |
研究概要 |
先行研究が少ないため、支援対象児の状況を把握しつつ、可能な支援体制の在り方を模索しながら支援体制の構築を試みた。 1.SMAI型児親に対するアンケート実施と発達里程標の作成 SMA家族の会の協力を得ながら、SMAI型児のコミュニケーション発達についてのアンケート調査を行った。2012年の9月~10月に15歳以下のSMAI型児の親58名に対し郵送による無記名アンケート調査を実施した。アンケート回収数は36通(62%)であった。このアンケート結果をもとに発達里程標を作成し、北海道大学のHPにて公開。またアンケートに含まれていた、コミュニケーション発達に関して寄せられた数多くの質問に対し回答を記し、発達里程標と同様北海道大学のHPにて公開した。 2.文字学習支援 文字学習支援に関しては、家族会や専門家を通じて多くの希望者が寄せられたため、まずは現状を把握し、機器を用いたコミュニケーションに必要とされる環境(意思伝達装置等、必要機器類所有の有無の確認、遠隔支援を行うに際し連携協力体制がとれる専門職とネットワークを構築したり、新たに支援者を求めるなど)を整えた。支援対象児17例(2歳から14歳,居住地は北海道~沖縄まで散在)の状況を把握しながら平行して文字学習支援ソフト作製や機器の貸し出し等の準備を行った。文字学習支援ソフトは、Windowsが搭載されたPCで動作可能なトビーコミュニケーター4(トビーテクノロジージャパン社製)で作成した。段階的な学習が可能となるようにオートスキャンニング機能を用いた因果関係の理解からスタートし、単音節での文字入力が可能となるようなプログラムを作成した。また、遠隔支援において、情報交換や情報提供のために積極的にSNS(Social Networking Service)を活用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、研究の準備および文字学習支援 研究代表者および分担研究者は、いずれも数年来SMA家族の会の医療アドバイザーを務めてきた関係で、支援希望の対象者からの相談を継続的に受けてきていた。また、今回の研究に先立ち、境らの行った遠隔支援(境 信哉 平成19~21年度科学研究費補助金研究成果報告書 2010)に引き続く形での支援研究への移行が可能であった。同様に、「熊本保健科学大学平成23年度教育研究プログラム・拠点研究プロジェクト」の助成を受け、単年度で行った「SMA(1)型児の文字学習支援に関する研究」おいて得られた事例研究の成果をもとに、大まかな支援プロトコールを試案として作成していたため、今年度の支援研究に関しても、着手の段階から、或る程度必要とされる支援がわかっていたため、対象者の招集に引き続き支援を開始できた。加えて、SMAI型児を担当している専門職からの問い合わせや紹介により、支援研究に対する協力の申し出が多かったため、対象者の招集を新たに行う必要がなかった。このことはSMA1型時のコミュニケーション支援に対するニードの高さを反映しているとも考えられる。 2、アンケートの実施および発達里程標の作成 分担研究者の境が中心になって行ったアンケート調査に関しては、家族会の協力が全面的に得られたため、6割を超える高い回収率で回答を得ることが可能であった。また、アンケートに加え、研究代表者と分担して、各保護者が抱えているコミュニケーション発達に対する質問に回答するという項目も設けたが、このことも高い回収率に寄与したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1、支援ソフトを使用した文字学習支援 支援対象児の学校担任や担当セラピスト等、連携協力可能な人に協力を得ることができる等、字学習支援ソフトを使用する環境の整った対象児に対しては、実際に文字学習支援ソフトを使用した学習支援を開始する。学校の授業内で一部学習支援として取り入れてもらう対象児や、訪問支援に関わっている作業療法士などの専門職種に使用を依頼するほか、メールや電話等を利用した遠隔支援も活用しながら支援を行い、効果等についての報告を家族等から得る。 2、文字学習支援ソフトを含む支援システムの効果検証 24年度に境らが作成した発達里程票や、他の評価を使用して、文字学習支援スタート時のコミュニケーション発達の状態を把握する。文字学習支援ソフトを使用しながら、主に文字学習を中心としたコミュニケーション支援を行っていく。効果の検証については、介入時と同様、発達里程標等を参考にしながら、文字学習支援ソフトを含む支援システムの効果を検証していく。支援対象児が全国に散在しているため、支援対象児宅を頻回に訪問することは困難であるため、各支援者や連携協力者を通じての情報集約になることが多いと考えられる。また、児の発信行動の様式は非常に限定されることから、標準化された評価や検査を通じて、コミュニケーション発達の様相を把握することが困難であることが多い。この対策として、著者の許諾を得た上で検査の施行方法を変容して実施し参考値を得る他、質問-応答関係検査(エスコアール社製)のように、元々試行に際し変容が認められている検査を行う等の工夫を行うことも必要と考えられる。また、その他の効果検証方法として、例えば意思伝達装置を用いた文字入力のスピードや内容を把握すること等を併用しながら、日常生活上のコミュニケーション発達の状況を把握する一助にしていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
1、文字学習支援に必要な機器類等の購入 文字学習支援に必要な、意思伝達装置やスイッチ等のデバイスの準備費用に充てる。加えて、近年タブレット型PCを意思伝達装置として活用できるための専用アプリケーションソフトが開発されてきているが、これらを使用するためのタブレット型PCの購入が必要となる。SMA1型児が、1つのスイッチ入力で使用するためには、PCのオートスキャンニング機能を用いる必要があるが、この使用を可能とするための周辺機器(できiPad)の購入費用に使用する。また、研究のひとつの目的でもある遠隔支援に際して、持ち運びが楽で、日常的に仰臥位での生活が多い対象児の状態を記録および報告のための撮影したり、インターネット電話を用いた状況の把握のためにもタブレット型PCは必要となる。 2、文字学習支援のための旅費 上記の研究を行うにあたり、遠隔支援が中心となるが、スイッチ設定や環境調整等直接支援が必要な場合には訪問支援を併用しながら行っていくための旅費が必要とる。介入初期時と終了時に、支援対象児の状態を把握し、コミュニケーション支援機器の使用状況を確認および調整するための訪問のための旅費に充てる。 3、成果発表の費用 成果発表として、24年度行ったアンケートと発達里程標作成に関する成果発表のための旅費が必要となる。また英文の校閲費も必要となる。
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