研究課題/領域番号 |
24650346
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 敏明 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任教授 (40248670)
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研究分担者 |
中島 康博 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 産業技術研究本部工業試験場, 研究員主査 (10469710)
泉 隆 東海大学, 国際文化学部, 教授 (80193374)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 健康・福祉工学 / リハビリテーション / 立位バランス検査・訓練 / 感覚検査 / 高齢者・障がい者 |
研究概要 |
高齢者の転倒による外傷・骨折は日常生活活動を著しく低下させることから保健・医療・福祉行政において大きな問題となっている.ヒトのバランス保持には,床・地面と足趾および足底面(支持基底面)との接触から得られる触感覚および下肢筋・関節から得られる関節運動としての固有感覚(運動覚・位置覚)の情報が重要である.本研究は,従来の触圧覚感覚検査に加え既存にない立位荷重時の高齢者の足趾・足底触感覚および足関節における固有感覚(運動覚・位置覚)の各閾値の変化を定量的に評価する装置を開発し,その評価に基づきバランス能力を改善するための最適な立位・歩行時重心移動軌跡を足底・足関節へ振動感覚刺激および固有感覚刺激を介して呈示する方法の研究を実施する.最終的には,転倒の危険を回避する注意喚起可能な新型体性感覚刺激付き立位バランス検査・訓練装置の開発研究を実施する.平成24年度は以下の2項目を実施した。①振動刺激装置による足底感覚評価装置の開発:本研究では,立位時における足底部触感覚への最適な振動刺激強度や刺激位置を検討するため,足底皮膚の空間分解能を計測する手法としてWeinstein(1968)による2点弁別閾を応用する.計測機器としては,本件代表者らが特許出願した振動刺激装置を応用し,かつ振動周波数を変調可能な装置とし感覚閾値の精度を高め、高齢者および若年者を被験者として足底振動感覚検査を実施した。 ②足関節固有感覚(運動覚・位置覚)検査装置の製作:本件代表者の科研A(平成22-24年度)において製作した足底外乱刺激装置(ヒトを立位した床をアクチュエータで前後左右に振動させヒトの姿勢制御を分析する)の技術を応用する.本装置は足関節における背屈・底屈運動および複合運動である外反・内反運動での運動覚・位置覚を評価・訓練する装置の製作を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は以下の項目を実施した。 ①振動刺激装置による足底感覚評価装置の開発を実施した。被験者(若年者5名、高齢者5名)の足底部に、「刺激なし」、「1点刺激」を4箇所、「2点同時刺激」を4箇所の、計9項目の振動刺激をランダムに与えた。被験者は座位で実施した。振動刺激の手段には、振動子24個を縦6×横4の配置で埋設した2枚のゴムシートを床上に置いた。足底感覚評価の方法は、足底部への9項目の振動刺激について、ランダムに提示し被験者は与えられた振動刺激が、「刺激なし」、「1点刺激」、「2点刺激」かを口頭で答え、検者はその正答数を記録した。結果から、高齢者、若年者のいずれも2点刺激よりも1点刺激の成績が有意に良好だった。また、2点刺激、1点刺激のいずれも若年者よりも高齢者の成績が有意に低下した。また、立位および仰臥位での本機器での足底部振動検査でも同様の傾向を示した。以上から、本研究では、1点刺激でかつ、踵部に関しては高齢者の立位での足底振動検査においては踵部位に本振動子の場合は複数での振動での刺激呈示が有効であることが明らかとなった。②足関節固有感覚(運動覚・位置覚)検査装置の製作を実施した。機能として、内外反・底背屈2軸の足関節固有感覚検査が可能である。左右の足を角度が固定された台(固定台)と、モータで角度可変な台(駆動台)にのせて台を駆動し、被験者が両台が同角度となったと感じたときにボタンで台を停止する。このときの両底板の角度の差を計測することで、足関節運動覚、位置覚を評価する。本装置の仕様としては、最大角度±45°、角速度範囲0.2~22.5°/s、角速度設定0.1°/s刻み、定格積載荷重100kg/台である。以上より、初年度目標とした2課題を達成し、十分な成果が得られた。平成25年度は足底触覚・足関節固有感覚用検査・訓練装置を統合し、その機器効果検証を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は24年度の成果を基礎として、足底触覚・足関節固有感覚用検査・訓練装置を統合した機器の製作および機器効果検証を実施する。上記平成24年度で開発した①振動刺激装置による足底感覚評価装置および②足関節固有感覚(運動覚・位置覚)検査装置をコンバインするため,機器による総合的感覚検査を再度検証し,データの再現性,妥当性を検討する.さらに,訓練としての効果を分析するため,若年者および高齢者に関して,本機器で検査評価し,触感覚系,固有感覚系での個人の問題点を分析し,感覚の再教育訓練を本装置で行う.例えば,触覚系の訓練としては,多様な肢位で,感覚の弱化している部位を中心に振動刺激を行い,感覚再教育を行う.両感覚系に問題がある場合は,関節運動を行いながら振動刺激,視覚呈示刺激を同時に与え,その関節運動を認知し,適切かつ正常な関節運動へとガイドする複合感覚刺激訓練を行う.また,運動面での立位バランス分析のためビデオ動作解析および足圧計測装置を①,②に同期して計測する(本装置は研究代表者購入所有済み).これにより,立位で必要な,足底面からの情報(滑りやすい路面,不安定な路面)を正確に得ることにより運動面での立位バランス能力を高 める.なお,若年者10名以上,健康高齢者5名以上,障碍者5名以上を被験者とし比較分析する.本機器に関して歩行支援に関する研究協力をLan-Yuen Guo教授(Kaohsiung Medical University)に御願いする.上記結果をふまえ,認知障害者・家族・介護者・医療職等に試作製作したシステムを使用していただき,満足度調査・モニター調査を実施し,機器開発に反映させ最終試作を制作する.
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次年度の研究費の使用計画 |
振動刺激装置による足底感覚評価装置と足関節固有感覚(運動覚・位置覚)検査装置の同時制御を行うための同期システムの製作のため電子部品,機械部本を消耗品費として計上した.研究者間の打ち合わせのため旅費を計上した。また,データ収集のため被験者謝金を計上した。
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