研究課題/領域番号 |
24650347
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
満渕 邦彦 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (50192349)
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キーワード | 電磁誘導 / 血流循環 / 体内電源 |
研究概要 |
近年、センサ工学やマイクロプロセス技術の進歩に伴い、生体内に埋め込んで生体機能のセンシングとそのデータの伝送を行なうモニタリングシステムの小型化・低電力化が急速に進んできたが、これらのデバイスを駆動するためのエネルギーを体内にどのように供給するかについては大きな問題のまま残されている。 一般には、体外に設置した電源から有線で体内に電気エネルギーを伝送するという方法が用いられているが、体内外を電線が交通するので感染防御や拘束性の面で問題がある。体内外の電線の交通を避ける方法としては、比較的大きな電力が要求される場合には1次コイル・2次コイルによる電磁カップリングを用いた方法などが、また、小電力で駆動出来るデバイスの場合には、各種埋め込み型の電池などが用いられるが、前者は拘束性の問題、後者は電池の取り替えに外科的手術を要するなどの問題が存在する。本研究においては、生体内で、かつ、自分自身の生体機能により電力を産生する方法として、その動物の心拍動により駆出される血液の機械的エネルギーを電磁誘導を用いて電気的エネルギーに変換することにより、自力で電力を産生するシステム構築についての基本的な可能性について検討を行なった。今回の実験結果によって、電磁誘導に用いる磁場に永久磁石を用いることの可能性、および、流路に装着した複数の素子の出力(起電力)を直列に接続することにより総起電力を増幅しうる可能性が示されたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の実験結果によって、電磁誘導に用いる磁場に永久磁石を用いることの可能性、および、流路に装着した複数の素子の出力(起電力)を直列に接続することにより総起電力を増幅しうる可能性が示されたと考える。1つの素子で発生可能な起電力は数mVと小さいので、実際に電源として用いる場合には流路に多数の素子(セル)を設置し、個々の素子で発生する起電力を直列に接続して増幅するなどの方法をとる必要があるが、個々の電磁誘導素子の陽極・陰極が、いずれも流路内の生理食塩水を介して導通しているという問題点があり検討を要する。
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今後の研究の推進方策 |
流れが定常流の場合は、電極表面で電気二重層が形成され、キャパシタとして働くため、層流による電磁誘導で生じる起電力はその外側(電極側)の電気二重層(キャパシタ)に妨げられて電極間には起電力が発生しなくなるのに対し、拍動流では発生する起電力が交流であるため、電気二重層(キャパシタ)の層を通過して起電力が計測されるという可能性が考えられる。これらの事から、基本的には、永久磁石による磁場を用いても、(原則的には)生体の血流は拍動流であるので、起電力を発生させる事は可能と考えられる。 今回の実験では、電極には、金メッキした金属のピンを用い、循環させる液(生理食塩水)中に露出させているが、一方の電極のメッキが剥げるなどした場合、地金の金属の溶解-電池化が生じ、両電極間に電池化による起電力が生じる可能性があり、また、上記の〈5・1〉の問題を解決するためには、キャパシタを無くする事が望ましいので、現在、分極のない銀・塩化銀電極を用いて検討を行なう。また、今回の実験では、電磁誘導素子間距離を約21 cmと大きく取った場合には、起電力は(ピーク値では)個々の素子によって生じる電位差を加算した値に近い値となった。このことから、ある程度素子間の距離を開ければ、各個々の素子の起電力はお互いに独立したものとして取り扱う事ができるという可能性が示された。これにより、素子間の距離をある程度離して設置する必要はあるが、直列接続によってトータルの起電力を増幅し得る可能性は示されたと考える。 今後、当面の目標をLEDを点灯させる事に置き、昇圧回路駆動に必要な 0.3 V の起電力を得る事を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験による研究過程で、当初の予想に反し、流れが層流の場合には電極における分極や電気二重層の影響により電磁誘導素子(セル)の起電力の発生が抑制されること、また、複数の素子による起電力を直列に接続した場合に、最終的に得られる起電力が必ずしも個々の素子に生じる起電力を積算したものとはならない事が判明し、研究遂行上、これらの現象の本質を見極める必要性が生じたため。 血流による起電力発生実験に使用する消耗品費、実験補助・実験データ処理に対して学生等に支払う謝金、および、情報収集のための旅費が主な使途内容であり、必要となった追加実験を次年度に遅らせて実施する際に使用する予定である。
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