研究課題/領域番号 |
24650351
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
坂口 正道 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60283727)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 運動機能回復 / 筋電計測 / バーチャルリアリティ |
研究概要 |
本研究は,脳卒中片麻痺の運動障害に対する新しいリハビリテーション訓練システムの開発を目的としている.近年,随意運動を反復することにより,脳神経回路を再建したり回復させたりする手法が注目されている.運動学習では,感覚フィードバックや自分自身で筋肉を動かしている感覚を持つことが重要である.研究代表者は,患者が自分の手を動かしている感覚が得られる訓練システムを開発し,それらのシステムと筋電や脳波の計測およびフィードバックを組み合わせた運動機能回復リハビリテーション訓練システムの開発を目指している. 平成24年度は,バーチャルリアリティ(VR)技術の一種である拡張現実感(AR)技術を用いた上肢リハビリ訓練システムを開発した.患者の手にマーカーを装着し,マーカーをカメラで撮影することで患者の手の位置情報を計測し,手の位置にコンピュータグラフィックス(CG)で作成した手の映像を重ねて表示した.また,患者の上肢の筋電信号を計測し,筋電信号から手を動作させる意志を計測した.患者が手の指を屈曲させようとすると,筋電信号を検知し,動作意志に合わせて描画されたCGの手を実際の手と同様に屈曲させた.麻痺があり手が上手に屈曲させられない場合でも,CGの手が正しく屈曲することで,自分の手を屈曲させている感覚を体験させることができた.また,実際に麻痺のある患者に対しても体験実験を実施し,その効果について検討した. また,位置と力覚の同時提示による技能体験の官能評価について検討した.自分自身の動作(技能)を体験することで,技能自体の伝達について直接的に評価を行った.力覚と位置を同時に提示することによる相乗効果を確認した. このほか,リハビリテーション効果の増大と定量評価を目的として,脳波計測システムを導入し,運動意図の検知とリハビリテーション効果の評価に関する基礎研究を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究は,おおむね順調に伸展した.研究計画に対応させてその概要を示す. 動作体験効果の定量的評価については,これまで硬さの判別や位置や力等の要素に関する評価を行ってきたが,今年度は自分自身の動作(技能)の体験に関する直接的な評価を行った.また,筋電計測システムや設備備品として購入した脳波計測システムを用いることで,技能体験時の筋電および脳波の計測も実施した. リハビリテーション訓練デバイスについては,書道技能体験システムの他に,基本的な手指の屈曲や伸展を訓練可能なデバイスを開発した.AR技術を用いて手指のCGを画面に提示すると共に,実際の指もモータで駆動させ,床面と指先が接触する場合には,リアルな接触感覚を提示した.また,一定リズムでの動作をイメージさせることで,麻痺の度合いが高く運動意図が計測しにくい患者にも対応するシステムとした. バイオフィードバック手法については,指先と床面との接触については実際に触覚刺激を与えると共に,モニタに映す映像では仮想のイベントを発生させ,例えば指が触れた物体が別の物体に変化するなど,視覚と触覚を同期させた刺激を与えるシステムを開発した. 開発したリハビリテーション訓練システムについて,大学病院のリハビリテーション部の医師や療法士などの専門家とも相談すると共に,実際に麻痺のある患者に対しても体験実験を実施し,訓練法や評価法について議論した.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,研究計画・方法に基づき,以下の方針で研究を推進する. 前年度に開発したリハビリテーション訓練システムの機能的評価実験を実施する.動作計測システムの計測精度,動作提示システムの動作精度,筋電や脳波の計測精度や分析精度について,実験的に検証を実施する.動作計測に関しては,現有するモーションキャプチャシステムを利用し,力覚計測については,設備備品として購入する多軸力覚センサを用いる. 実施する機能的評価の結果に基づき,リハビリテーション訓練システムのデバイスの改良を行う.計測システムや提示システムが人間と直接接触するシステムであるため,システム全体のデザイン及びヒューマンインタフェース部は特に重要である.このため,基本設計は独自に行うが,製作等については必要に応じて外注する. 開発したリハビリテーション訓練システムの臨床的評価実験を実施する.臨床的評価実験の実施には,リハビリテーションに関する専門家や専門施設,そして患者の協力が必要不可欠である.他の研究テーマで共同研究を実施している近隣の大学病院リハビリテーション部があるので,協力を依頼して実施する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25 年度は,前年度に開発したリハビリテーション訓練システムの評価を実施するために,設備備品として多軸力覚センサを購入予定である.また,消耗品で購入する機械部品や電気電子部品を用いて改良を行う.また,専門知識を得るために,リハビリテーションに関する専門図書を購入する.旅費は,研究期間内に国内の調査研究を2回,国内の成果発表を2回,外国への成果発表を1回予定している.この他,研究期間内に実験補助の謝金,研究成果投稿料等も支出を予定している.
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