意思伝達能力を損なった末期のALS患者のために、視覚刺激や聴覚刺激に対して現れる事象関連電位(ERP)の成分であるP200とN200とP300を検出することによって、ALS患者が注意を傾けている刺激を特定することができる。そして、これを意思情報として利用することによって、ALS患者の意思伝達が可能となる。 初年度には、ALS患者が目標とする刺激を特定できるシステムの製作を行った。具体的には、患者に視覚や聴覚による刺激を与えると同時に、脳波を測定する。患者は目標刺激を強く意識する。そして、目標刺激に対応して出現するP200とN200とP300を検出することによって、目標刺激を特定することができる。 このシステムを用いて、「音声」「文字」「音声と文字」「項目」「写真」「イラスト」を刺激とする目標刺激特定実験(Ⅰ)、「親指」「人差指」「中指」「薬指」「小指」を刺激とする目標刺激特定実験(Ⅱ)を各刺激50回ずつ行った。目標刺激特定実験(Ⅰ)においては、特定した刺激をディスプレイに提示し患者に示した。正答率は「音声」刺激において84%、他の刺激においては、96%以上の高い正答率を得ることができた。 また、目標刺激特定実験(Ⅱ)においては、目標刺激を特定した後にディスプレイに提示し、自作の装置でその指を動かした。正答率は100%であった。これはリハビリ実験であり、患者は自分の意思で指を動かすことができ感動していた。最終年度には、目標刺激特定実験(Ⅰ)のデータをまとめ、電気学会論文誌Cに「ALS患者のための事象関連電位を利用した目標刺激の特定」と題して公表した。また、周波数分析を行うためにFFTのソフトウェアを作成した。今後は、より多くのデータを取得・分析して、リハビリ実験を推し進めていく計画である。
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