ヒトの身体運動は上位中枢からの下行指令と反射応答の相互作用によって調節されており、反射自体も促通性と抑制性の両入力によりその興奮性が修飾されている。この反射興奮性の変化に関しては、感覚神経への経皮的な電気刺激で誘発されるHoffmann反射(H反射)を用いることで、単シナプス性の脊髄反射を中心に研究されているが、上位中枢との掛かり合いについてはいまだ不明な点が多い。ラットやサルの動物実験において、報酬訓練での学習によって反射を随意的に促通・抑制させることが可能との報告がすでになされている。そこで、本研究ではヒト被験者に対してH反射を促通もしくは抑制させるよう指示し、その際の反射変化度合いと脳活動の関連性を調べることを目的としている。 本年度は、非侵襲的にヒトの大脳の興奮性を変化させることができる経頭蓋直流刺激(tDCS)によって運動野の興奮性を変化させ、H反射興奮性の随意的な調節に対する影響を調べた。健常被験者に対し、大脳皮質の運動野上に陽極電極を置き、30分間のtDCSを与えて、運動野の興奮性を促通させた。tDCSによる運動野の興奮性変化は、経頭蓋磁気刺激(TMS)で生じる運動誘発電位より確認した。被験者にはヒラメ筋のH反射振幅を視覚フィードバックし、反射振幅が大きくもしくは小さくなるよう努力させた。その結果、反射の大きさに変化がみられたが、tDCSによる刺激を行わないコントロール条件との間に有意な差は確認されなかった。
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