睡眠の動的制御機序の背後にある複数のサブシステム(振動子)の性質を明らかにすることを目的として、夜間睡眠時の脳波データと睡眠段階遷移データを収集(睡眠実験)し、Stage2から他の睡眠段階へ遷移する直前での脳波の特徴を検討した。 睡眠実験は、健常成人26名(平均年齢38歳)を対象とし、日中を通常に過ごした後の夜間に実施した。その際、脳波、筋電図、眼電図、心電図、呼吸モニターからなる睡眠ポリグラフ記録を行った。記録終了後、国際基準に従い、30秒を1エポックとして睡眠段階(覚醒、Stage1、Stage2、徐波睡眠[slow wave sleep; SWS]、レム[rapid eye movement; REM]睡眠)を各エポックで判定した。またStage2での脳波について、睡眠紡錘波とK複合波の各エポックでの出現回数を調べた。 その結果、徐波睡眠へ遷移する直前では、その他の睡眠段階へ遷移する直前、またはStage2が継続する場合と比較して睡眠紡錘波の出現回数が有意に(p < 0.05)増加していた。一方、覚醒またはStage1へ遷移する直前では、その他の睡眠段階へ遷移する直前、またはStage2が継続する場合と比較してK複合波の出現回数が有意に(p < 0.05)増加していた。 以上の結果から、Stage2から深い睡眠(徐波睡眠)または浅い睡眠(覚醒/Stage1)へと遷移する直前では、睡眠の維持または覚醒と関連するとされる特徴的な脳波がそれぞれ生じやすくなることが示唆された。このことは、Stage2より深い睡眠に関わる振動子(Stage2-SWS)の性質が、Stage2より浅い睡眠に関わるシステム(Stage2-覚醒/Stage1)と同様のflip-flop型であることを反映している可能性があると考えられた。これらの結果を基盤として、Stage2の動的制御と関連する複数の結合振動子から構成される睡眠動態の数理モデルを検討しつつある。
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