研究課題/領域番号 |
24650372
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
福本 まあや 富山大学, 芸術文化学部, 助教 (10464033)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 体ほぐし / ボディワーク / ソマティック学習 / トーマス・ハナ / 気づき / 共同作業 |
研究概要 |
本研究は、T.ハナによるソマティック学習の原理とB.コーヘンの学習プロセスの説明を参照枠としながら日米4つのボディワークの構造的広がりと実践事例を相互比較し、心身の調整と自他理解の深まりをねらいとする身体教育のための、多様な方法論とその思想的基盤を提示することを目的としている。 平成24年度は3年計画の初年度であり①ハナとコーヘンの理論についての理解を深め、②ハナの理論を用いて4ワークの体系の広がりを構造的に示す段階であった。結果としては、4ワークの内容(コーヘンの理論を含む)を踏まえつつ、まずはハナの理論について理解を深める作業が中心となった。その結果については学会発表を行い、現時点での不足資料についてコーヘン及び野口整体指導者へのインタビューを通して一次資料の収集を行い、論文としてまとめた(査読中)。 現段階の成果としては、ハナの述べるソマティック学習とは何かという説明を神経生理学などを参照しつつ読解し、そこから学習の引き金となる各段階(気づきの投射、神経系の共同作業、感覚運動健忘症の解除)を抽出し、学習の原理(気づきの投射、共同作業)を指摘したことである。ハナの論の前提を捉え、その外側に広がり得るソマティック学習の可能性を検討し、彼が想定しなかったソマティック学習の体系までを分析し得る分析の視点を指摘した。これらの作業を通して、具体的な実践が想定されたボディワークの理論には見られない考え方、すなわちソマティック学習の推進力となる「共同作業」という概念や、「核のプロセス」「皮質のプロセス」という経験の二層性という彼の考え方が浮かび上がった。またボディワーク分析のための5つの視点が指摘できた。 これらは、ボディワークの分析の視点としてだけでなく、「体ほぐし」など学習者の一人称の経験を重視した運動学習の指導計画を、指導者自らが確認し洗練させる上でも有意義な視点だと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は文献資料収集及び研究協力者への実地調査を行い、ハナとコーヘンの理論についての理解を深め、その成果についてコーヘン及び研究協力者よりフィードバックを得たという点でほぼ当初の予定通りである。 一方、予定していた対象とする4つのボディワークの体系の広がりを、ハナの理論を用いて分析するという作業は、その方法論の信憑性が後々問われることが懸念されたため、まず今年度は、ハナの理論をもとにボディワーク分析の視点を提示する作業に絞り、実際の作業は次年度に残した。一方、今年度の段階で、学会発表及び論文投稿を行い分析の視点の客観的評価を得る努力をした。 以上のことより、目標の達成度として、上記の評価区分が妥当と考えた。
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今後の研究の推進方策 |
当初、25年度にはコーヘンの理論をもとに4つのボディワークについてテスト分析し、その結果を研究協力者(各ワークの指導者)に報告しフィードバックを得るとともに、不足する一次資料を収集する予定し最終年度での成果公表につなげる予定であった。 しかし24年度の作業を進める中で、段階的に研究の成果公表を行い、その方法や考察内容について客観的評価を得ることが、本研究を着実に進める上で必要であり、また身体教育を取り囲む社会状況(心身の乖離、暴力的指導など)への応答としても発信すべきと考えるようになった。また、24年度の作業を通して、コーヘンの理論がハナの理論ほどの汎用性をもつものではないとも考えるようになった。 そのため、本研究の目的・方向性は当初の予定どおりだが、25年度には、コーヘンの理論を分析枠として用いると言う作業は省略し、24年度にハナの理論から抽出されたソマティック学習の原理及び分析の視点を用いて、4つのボディワーク(コーヘンを含む)の原理と学習プロセスを抽出し、各ワークの体系の広がりを構造的に示すという作業を行いたいと思う。これらの作業は既に収集済みの資料に基づいて進め、その成果について国内の学会発表等の段階を踏んだ後に、日米の研究協力者に報告し指導助言を受ける機会をもつという順序とする。また、この研究協力者の指導助言を通して不足情報を補充した後に、成果を論文としてまとめる作業を25年度内に行いたいと考えている。国際学会での成果発表の機会があれば、積極的に挑戦する。 本研究は領域「体ほぐし」の検討を出発点としながらも、「体ほぐし」そのものではなく、その背景理論であるソマティクスやボディワークを対象としているため、体育科教育に資する側面が希薄になることが懸念される。この懸念を払拭するために、関連学会での成果公表を段階的に行い、当該領域に資する情報発信に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度4月にIAPESGW(the International Association of Physical Education and Sport for Girls and Women)第17回大会がキューバで予定されており、そこで本研究に関係する研究を口頭発表することとなっている。その費用の一部に、24年度予算における次年度使用額の全額を充当する。 口頭発表することとしている本研究に関係する研究とは、題目:The different Roles of Images in Ideokinesis and Noguchi-Taisoである。これは本研究者の平成21-23年度科研費受給研究(課題番号21700603)の成果が主だが、現在の研究はその継続研究にあたり、今回は本研究の平成24年度の作業を通して得られた知見を加えて再構成して発表する。これまでの研究成果を国際的な場で発表することは、国際的な体育研究の潮流に、本研究のどの側面が評価を得られるかの確認となるとともに、我が国のソマティック研究の一例を紹介することでもあり、本研究の目的達成につながると考える。
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