研究課題/領域番号 |
24650372
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
福本 まあや 富山大学, 芸術文化学部, 助教 (10464033)
|
キーワード | 体ほぐしの運動 / ボディワーク / ソマティック学習 / トーマス・ハナ / awareness / 共同運動 |
研究概要 |
当該年度は最終年度にむけての試験分析と資料収集の段階であったが、前年度の成果を吟味する中で、ソマティック学習の原理として浮かび上がった「awareness」の概念の検討と2ボディワーク対象の試験的な分析が重要と判断され、それを行った。文献やDVD資料の分析作業に加えて、運動学習における意識作用について理論の厚い日本認知神経リハビリテーション学会学術集会等での資料収集、B.コーヘンの用語法に影響したバーテニエフ法関係者による指導助言、野口整体の愉気法についての実地調査を実施した。 研究成果の公表は、2012年度の段階での成果およびそれに先立つ成果(前回の科研費受給研究)を2件の国際学会で口頭発表、2012年度の成果論文が国内学術誌で受理、2013年度の成果であるハナの理論における「awareness」の概念を踏まえ2ボディワークの比較分析結果をまとめた論文の口頭発表を1件、ソマティクス理論の学校教育への適用事例を米国の舞踊教育界の指導基準書を中心に検討した論文の口頭発表を1件行った。 新たに明らかになった内容は次のとおりである。ハナのソマティック学習の説明に見られる「awareness」という概念は、運動に先立って特定の身体部位に意識と呼吸を向けるといった局面が重要で、ハナ理論を取り扱った別件の先行研究、ひいては「体ほぐしの運動」における「気付き」の内容(運動後の振り返りの活動)とは異なる。そして、この運動前の意識の投射という意味で野口整体(活元運動)の指導語や説明を分析すると、野口整体では「天心」が重要とされながらも学習者の意識を方向づける指導語や学習内容が浮かび上がる。ハナはS.ゼルバーらの仕事に言及しつつ「awareness」という語を説明するが、それは東洋では「気」として説明される作用を、欧米型の運動学習システムに適用する必要から生まれた語だと考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、2013年度には、T.ハナもしくはB.コーヘンの理論に基づき、4つのボディワークの学習プロセスについてテスト分析し、不足する資料を実地調査等で収集完了していなくてはならない。しかし2013年度は、国際学会等での発表の機会に恵まれたことと、「awareness」という語の新たな意味が浮かびあがった関係で、計画とは異なる作業を優先した。そもそもボディワークが東洋の伝統的な身体訓練法をルーツにもつことはこれまでにも指摘されてきているが、「awareness」と「気」の関係を説明する研究は所見の限り見られず、その関係性を明らかにすることは最終的な比較分析作業に進むために必要な段階であった。また、日米4つのボディワークを共通の分析枠で比較検討し、各ボディワークに含まれる複雑なシステムと独特の用語を整理し、原理や方法の共通性と広がりを明らかにするという最終段階に必要な資料の収集と研究の見通しはほぼ立っていると考える。以上のことから、現在までの達成度を上記のとおり判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年度は総括し成果公表を行う段階である。対象とする日米4つのボディワークを相互比較し得る分析の視点や理論的な参照枠は既に浮かび上がっており、分析に必要な文献資料の収集もほぼ完了している。従って当面は分析を進め、論文としてまとめ、学会発表及び研究協力者への報告を行い、最終論文を学術誌に投稿する。 当初の予定では国際学術誌への論文投稿を計画していた。しかし2013年度の国際学会での発表経験を経て実感した事でもあるのだが、「体ほぐしの運動」という日本独自の革新的な試みが直面した問題に端を発する研究であるため、国内で意味をもつ論文の内容と国際的に意味をもつ論文の内容が異なってくる。日本では、体育科教育では極めて西洋的な方法が主流となりながらも、授業の外側では日本特有の身体観や身体教育観、それらを説明する言葉や慣習が色濃く残る。こうした背景までをも検討し説明することは、本研究の焦点ではないが、国際学会ではそうした背景の説明も重要になると考えられる。こうしたことから、2014年度は、統括した研究成果を国内の学会で発表し、我が国の体育科教育に資することをねらいとして国内学術誌への論文投稿を行うこととしたい。 次期以降の継続研究の見通しは、現段階では2つの方向が考えられる。一つは、今回の研究で得られた成果を具体的に学校体育の文脈で生かすために、指導方法や評価基準を検討する研究を進めるすることである。これは2013年度に行った全米舞踊教育団体(NDEO)による『舞踊教育指導基準書』に見られるソマティック理論の具体的な適用事例を検討した作業が土台となる。もう一つは、英国の研究者が中心となって展開している身体教育に関るグローバルな動き(本研究者は2011年より参画)を踏まえつつ、我が国特有の身体教育観やその伝統的な方法について整理し、その価値を国際的に発信してゆくことである。
|
次年度の研究費の使用計画 |
2013年度の論文投稿費用(別刷購入費を含む)の請求が未着だったため。 2013年度の論文投稿費用(別刷購入費を含む)について請求が今後あるため、その支払いに充当する。
|