平成26年度は、前年度までに行ったハナのソマティック学習の原理とプロセスの検討から得られた分析の視点(特に運動に先立つ「気付きの投射」を支える言説や指導法)を用いながら、野口整体(主に活元運動)に関する野口晴哉の著述や、野口体操に関する野口三千三の著述について分析考察した。その途上、I.ジノーによるボディワークのディスコースについての認識論的考察に関する論文(2010)を検討し、ボディワーク考案者の言説の分析考察に適用した。加えて野口整体および野口体操の指導者へのインタビュー行った。 結果として、野口三千三の指導語や多様な物体の使用は、運動前の「気付きの投射」と運動時の気づきの持続を支えるものであり、ジノーの主張を踏まえると、これらは野口体操が物体や視覚刺激に強い関心を抱く傾向のある美術系学生を対象に展開したことが要因と考察された。野口整体は、主に日本の民間療法の伝統の延長線上で一般の人々を広く対象として展開してきたもので、これは米国のボディワークの多くが、身体の専門家ともいえる舞踊家や俳優を対象に展開したこととは対照的である。そのために考案者野口晴哉の言説や運動時の指示語は、一般の人々の加齢や病気による不安を取り除き身体のあるがままの状態を受け入れることの有用性を説き、その実践の狙いもまた、意識の領域の拡大をめざしたハナの理論とは対照的に、不随意な領域(錐体外路系)における運動処理能力の拡大をめざすものとなったと考察される。 本研究3年間の主要な成果は、運動前の「気付きの投射」がソマティック学習の引き金となるというハナの論を明らかにしたことと考える。現行の「体ほぐしの運動」では運動後の振り返りの活動である「気付き」の内容に、学習者集団の関心に応じた指導ツールを用いて運動前・運動時の「気付きの投射」を加えることが、自律的局面における「調整」をもたらすと指摘できる。
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