筋骨格モデルは、バイオメカニクス関連の幅広い分野において欠かせないツールとなっている。しかし、現在広く用いられているモデルのほとんどは、筋を直線で近似しているため、肩関節まわりの複雑な筋の走行を再現することができないという大きな欠点があった。本研究では、この問題を根本的に解決するために、筋のボリューム及び筋同士の接触による変形を考慮した次世代筋骨格モデルを開発することを目的としている。 1年目は、筋のボリュームを表現するために多量の質点を格子座標系で配置し、多数の質点を並列で処理することのできる単一筋のプロトタイプモデルを作成し、2年目では、筋同士の干渉チェック計算の実行、および、市販の筋表面形状モデル(Zygoteモデル)から格子座標系モデルへの変換作業を行った。3年目の本年度は、上記を組み合わせ、肩関節まわりの約20筋の形状を同時にシミュレーションすることを試みた。その際、多数の筋を扱う上で膨大なメモリが必要になることから、プログラムの64bit化、及び、GPU上のメモリの最適化を行った。その結果、干渉計算部分を除けば、約20筋もの筋形状を、デスクトップPCでほぼリアルタイムにシミュレーションできるほどの性能がでることがわかった。今後、干渉計算部分のさらなる高速化を行うことで次世代に通用する実用的筋骨格モデルになることが十分期待できる。肩関節周辺のような複雑な筋走行を正確に再現できるモデルはバイオメカニクス研究者の悲願であり、今後スポーツやリハビリテーションなどの応用分野の発展が加速的に進むことが期待できる。
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