研究概要 |
本研究は,人間の持つ冗長な自由度の利用法について,相互に変動を補完し合うような関節運動間の協調動作の存在を体系的に調査する一環として実施している.特に本申請にあたる研究では,正確に投球する際の協調動作を対象とする.本年度は手掌部の動きを中心に解析を進め,その動きからリリース直後のボールの挙動(速度ベクトルの大きさと方向)をどの程度説明可能なのかを明らかにすることからスタートした. 社会人野球投手16名を対象に,投球側の手の第3指の3点を含む,全身49点に反射マーカーを貼付し,室内マウンドからの投球30~45球を光学式動作解析システム(1000 Hz, MX, VICON)で撮影した. ボールのリリース直後の軌跡を水平面に投射した角度(以下,水平角)およびそれを鉛直面に投射した角度(以下,投射角)をそれぞれ従属変数とし,3次元絶対座標系における手掌の姿勢に関する変数(ヨー角,ピッチ角)や速度ベクトルの方向に関する変数(速度ヨー角,速度ピッチ角)を独立変数とした重回帰分析を行った. 9名の分析を終えた段階で,水平面の角度に関しては,重相関係数の範囲は0.337~0.834といずれも5%水準以上で有意な相関関係が認められた。重相関係数に対する各独立変数の寄与率を求めると,9名中7名において速度ヨー角(投球方向に対する水平面の投射角)が最も高い寄与率を示し,手掌遠位部の軌道を制御することが制球力の向上に繋がる可能性が示唆された.鉛直面の角度に関しても,重相関係数の範囲は0.384~0.780といずれも5%水準以上で有意な相関関係が認められたが,9名中7名において、水平面の値よりも小さかった。また,各独立変数の寄与率は,投手毎に異なっており,個人差が大きいことが明らかとなった.また,指の使い方が水平面に比べて鉛直面の正確性に与える影響が大きい可能性が示唆された.
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