身体運動では,内在的に生じる変動を最小限に留めるために,冗長な自由度を利用することで変動を補完し合うような関節運動間の協調性があることが近年報告されている.本研究は,スポーツ動作における相補的協調動作の存在を体系的に調査する一環として実施した.特に,本研究では,速く正確に投球する際に,このような相補的協調動作が生じているのかどうかを明らかにすることを目的とした. 社会人野球投手23名を被験者として動作解析実験を行った.被験者は,室内マウンドから約19m先にある的を目掛けて,速球を15球1セットとし,休憩を挟んで2セット投球した.この際,全身49点に反射マーカーを貼付し,光学式動作解析システムで投球動作を撮影した. リリース直後のボール水平角度と,手関節中心,第三中手骨骨頭,第三基節骨遠位部の移動軌跡の水平角度と高い相関を示したが,必ずしも,リリース時のそれらと高い相関を示すとは限らず,その数ミリ秒前に最も高い相関を示す場合も,少なからず認められた. 最も高い相関を示した時刻の第三中手骨骨頭の動作変動が,どのように形成されているのかを検討するために,ランダマイズ法を順運動学に適用した.すなわち,着地した足の位置を基点に,足関節から投球側の第3中手骨までの剛体リンクモデルを使った順運動学を計算する際,実際に行われた試技の中から各関節運動をランダムに抽出することによって,擬似シミュレーション動作を30試技分生成することによって,全身運動の結果として相補的協調動作が生じているのかどうかを検討した.実際の変動に対してランダム抽出した後の変動の方が大きくなれば,なんらかの相補的協調性があることが示唆される. 結果は,ランダム抽出後の変動が実際の変動よりも5~15倍も大きく,野球投球においても,制球の向上に身体各部の相補的協調動作が重要な役割を果たしていることが明らかとなった.
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