研究課題/領域番号 |
24650392
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
今中 國泰 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 教授 (90100891)
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キーワード | 予測的知覚 / 潜在知覚 / 移動刺激 / 逆向マスキング |
研究概要 |
感覚入力の脳内情報処理は、僅かとはいえ処理時間を要することからその意識化には必然的に遅延が生じる。つまり脳の知覚認知処理は環境刺激と同時ではなく実環境のタイミングより僅かに遅れることになる。一方、移動刺激の知覚が実際より百数十ミリ秒後の将来位置に知覚される現象、予測的知覚Representational Momentum(RM)が古くから知られているが、このRMは知覚の脳内処理遅延を補填している可能性がある。 本研究は、RMが知覚処理遅延の補填機能としての基本機能であるなら無意識下でもRMが生じるであろうとの仮説に基づき、RMが逆向マスキング条件下で生じるか否かを検証することとした。逆向マスキングは静止刺激を知覚的にマスクする古くからの実験手法であるが、これを移動刺激に適用した例はいまだ報告されてない。したがって本研究では、(1)移動刺激のマスキング手法の開発、(2)移動刺激のマスキングによりRMが生じるか否か、の2ステップの研究を計画した。 平成24年度は、移動刺激が知覚不能となるような逆向マスキング条件を探索的に検討した。探索的な実験を重ねた結果、輪郭を不鮮明にした横縞図形(5cycle/deg、cpd)を移動刺激とし、移動局面の最後の3フレームの刺激図形の空間周波数を5cpdから3cpdに変え、直後にランダムドットパタンでマスクをかけ、空間周波数変化の知覚抑制を検討した。その結果、マスクがほぼ完全にかかることが明らかとなった。 平成25年度は、平成24年度の成果に基づく不鮮明刺激を用い、逆向マスキングによるRM測定を含む予備実験を行った。その結果、RMに顕著な個人差が認められたが、マスクされたのが刺激そのものなのか刺激パタンなのかについては不明であり、移動刺激の呈示そのもののマスキング効果を生み出す実験条件を明らかにする必要性が出てきた。今後その検討を引き続き進めていく予定である。さらに(2)RM実験への適用についても詳細な検討を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の成果を受け、平成25年度はRM測定を視野に入れた移動刺激の逆向マスキング条件を検討し、マスク刺激が移動刺激の知覚をマスクするのか、刺激は見えているが刺激パタンがマスクされるのかが不明であるという問題点が明らかとなった。したがって、当初計画の(1)移動刺激のマスキング手法の開発については一定の成果が得られ、さらに (2)そのRMへの適用についての問題点が浮き彫りにされ、今後の検討の方向性が明確になった。これらの進展に鑑み、本研究計画の平成25年度の進展状況はおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、移動刺激の逆向マスキング条件をさらに詳細に検討し、逆向マスキング下のRM測定を可能とする方法を明らかにする。そのため、これまで検討してきた移動刺激の操作だけではなく、マスク刺激をこれまでとは異なる方法で操作することを試みる。すなわち、移動刺激消失後にランダムドットパタンを呈示して逆向マスキング効果を得るというこれまでの方法に加え、発想を転換し、背景刺激としてマスク刺激をあらかじめ呈示し、移動刺激をその背景刺激の上で移動させ、移動刺激の消失と同時に背景刺激を異なる方向に動かす方法を採用する。これにより、移動刺激の最後の局面の運動が知覚的にマスクされ、移動刺激そのもののマスクを可能にすることが予想される。その最適な操作方法を検討する。また、これまでのRM測定実験では試行数が440試行と非常に多かったため、試行数を減らして効率のいいRM実験とする方策を検討する。平成26年度は最終年度でもあり、これらの実験によりデータ収集を精力的に実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、移動刺激の逆向マスキング手法の探索的検討が中心であったため、実験プログラムの作成とその検証のための予備実験を繰り返し実施し、移動刺激操作と逆向マスキング効果の関係を探索的に検討してきた。そのため、多数の被験者による実験の実施には至らず、多数被験者の実験に使用する機材の購入、実験参加者の謝金、実験補助者の雇用のための経費の支出を必要とせず、それらを平成26年度の実施計画に組み込むこととした。 平成26年度は、(1)多数の被験者を用いて実験を実施するため、実験機材としてのタッチパネルモニタ、制御用パソコン、制御用プログラミングソフトのライセンスなど実験設備の充実・拡充のための経費、実験参加者の謝金、実験実施補助者の雇用、研究補助として博士研究員の雇用経費への支出を予定している。さらに、(2)実験成果の取りまとめ、国内・国際学会における参加・発表の旅費、国内外の研究打ち合わせ旅費、論文投稿のための英文校正、投稿料等に支出する予定である。
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