研究課題
知覚・認知と運動にかかわる感覚入力の脳内情報処理には、僅かとはいえ一定の処理時間がかかる。したがって、脳の知覚認知処理は環境刺激と同時ではなく実環境のタイミングより僅かに遅れていることになる。一方、古くから、移動刺激の知覚では実際の位置より百数十ミリ秒後の将来の位置が知覚されるという表象的慣性Representational Momentum(Freyd & Finke, 1984)が報告されている。本研究では表象的慣性を脳内情報処理の時間遅延補填機能と捉え、逆向マスキング手法による閾下刺激で表象的慣性が生じるか否かという点から、その潜在性を検討した。平成26年度は、逆向マスキング効果を生み出す刺激提示の検討として、縞模様の空間周波数を3Hz-5Hz間で変化させ、その変化の検出の可否をもってマスキング効果をみる実験を行った。その結果、個人差が顕著にみられるとともに、3Hz、5Hzの空間周波数の変化が検出不可能なことが直ちにマスキング効果を示すとは限らないことも判明し、依然として移動刺激のマスキング効果を生じさせる刺激条件を決定するには至らなかった。平成24~26年度と、4種類の刺激提示方法を用いて移動刺激のマスキング効果を生み出す実験系の構築を試みてきたが、個人差が非常に大きく、マスキングが起きる者と起きない者が混在する結果となった。またマスキング効果が生じることが確認された場合でも、その直後に実施したRM実験時にマスキング効果が維持されていたかどうかについては確認できず、実際は移動刺激が見えていた可能性も考えられた。したがって、今後、マスキング効果を保証する実験条件のさらなる検討が必要といえる。移動刺激マスキング手法の確立は、RM実験への適用以前に解決すべき新たな重要度の高い研究テーマであり、さらなる検討を重ねていく必要があるものと思われる。
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