研究課題
本研究では、運動に対する生体応答のバイオマーカーの確立を目指す基礎的研究として、運動刺激により骨格筋細胞から分泌される分泌型microRNA(miRNA)が骨格筋の可塑性の指標となるか検討することを目的として、2年計画で実施する。初年度である本年度は、マウスヒラメ筋廃用性萎縮モデルを用いて、ヒラメ筋の萎縮とその後の再荷重による再成長に伴う血漿中のmiRNAをマイクロアレイにて網羅的に解析した。その結果、筋萎縮に伴い2倍以上増加したmiRNAは105種、2分の1未満に低下したmiRNAは38種であった。逆に、対象群には認められず筋萎縮時にのみ認められたmiRNAは75種、その後4週間継続した発現が認められたものは22種であった。対照群に発現が認められるのにもかかわらず筋萎縮時に消失したmiRNAは9種認められた。萎縮後の再荷重2週目にのみ発現が認められたmiRNAは7種、逆に再荷重2週目にのみ消失したmiRNAは37種類であった。また、萎縮直後ならびに再荷重2週目にのみ発現が認められたmiRNAは18種であった。一方、ヒラメ筋におけるmiRNAで、対象群では認められないが、萎縮時にのみ認められるmiRNAは25種、逆に対照群に認められるものの萎縮時には確認できないものは64種、その内で萎縮直後にのみ発現が認められないものは19種、それぞれ認められた。。また、萎縮直後と再荷重2週目にのみ認められるmiRNAは21種、再荷重2週目にのみ消失するmiRNAは5種観察された。こうしたヒラメ筋の量的変化に伴い血漿中と筋肉中で共に特徴的な変化を示すmiRNAがバイオマーカー候補が確認された。今後、miRNA発現量の定量評価ならびにマウス筋芽細胞(C2C12)を用いた骨格筋可塑性に特異的な分泌型miRNAを特定し、運動に対する骨格筋応答のバイオマーカーの確立を目指す。
2: おおむね順調に進展している
本研究は2年計画で実施され、平成24年度で最初の1年間の研究が終了した。これまで、骨格筋可塑性のバイオマーカーの候補を探索するために、骨格筋の量的変化に伴う血漿中のマイクロRNA(miRNA)量ならびに骨格筋中のmiRNA発現について、両者ともにマイクロアレイを用いて網羅的に検索し、血液中のバイオマーカーとしていくつかの候補を得ることができた。今後、これら候補miRNAが骨格筋細胞から分泌されるかについて培養骨格筋細胞を用いた検討を行う段階となっており、2年間の研究目標の達成は十分可能となっている。したがって、当初の研究目的はおおむね順調に達成されていると判断している。
昨年度の研究により骨格筋可塑性発現のバイオマーカー候補として挙げられたmiRNAの有効性を、培養細胞系を用いて検証する。マウス筋芽細胞(C2C12)を各種条件下で培養し、増殖および分化に伴う筋細胞(筋芽細胞および筋管細胞)内のmiRNAの発現および筋細胞から培地中に分泌されるmiRNAの発現を明らかにする。解析の対象とするmiRNAは昨年度の検討により、萎縮および再荷重による再成長時に血漿中で検出あるいは不検出となったmiRNAとする。以上より、骨格筋可塑性のバイオマーカーとしての骨格筋由来の分泌型miRNAの有効性を明らかにし、今後のスポーツ現場での臨床応用へ向けた研究基盤の確立を目指す。
基金の特性に基づき、当該年度の研究費の執行可能範囲内で執行したため、わずかな次年度使用額が生じた(2,180円)。次年度はこの金額を合わせて研究費を執行するが、当初の研究費の使用計画を大きく変更させるような金額ではないものとなっている。予定している主な支出は、細胞培養実験で使用する培地、血清、無血清培養用添加剤、ならびに細胞および培地からmiRNAを抽出する各種キット、そして候補として挙げられたmiRNAを定量するためのreal time RT-PCR関係試薬キットである。また、研究成果を発表するための学会出張旅費も計上する予定である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (33件) (うち招待講演 9件) 備考 (2件)
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