研究課題/領域番号 |
24650452
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
李 成吉吉 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 自立支援開発部, 研究員 (80583666)
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キーワード | 認知機能 / 身体機能 / 高齢者 |
研究概要 |
高齢者における認知機能低下を簡便な検査を用いて予測するのは非常に重要である。昨年は、無作為抽出された地域在住中高年者を対象とした縦断的検討により、身体機能と認知機能との関連について検討を行った。対象者は、年齢性別に層化無作為抽出された地域在住40歳以上の中高年男女2,400人を対象とした「国立長寿医療研究センター・長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いた。多要因を考慮した縦断解析によりどの身体機能が認知機能低下の予測因子であるかについて検討を行ってきた。その結果、全身反応時間・脚伸展パワーは男女ともに認知機能との関連が認められ、全身反応時間・脚伸展パワーは認知機能の低下を予測できる有用なスクリーニングツールになる可能性が示唆された。しかし、身体機能は性差があること、認知機能低下の評価に用いるMMSEのcut-off pointが多様であることについては検討課題として残った。そのため、今年度は、性差による身体機能はMMSEの多様なcut-off pointにどのような影響を与えているかについて詳細な検討を行った。その結果、男性では、閉眼片足立ち、全身反応時間、脚伸展パワー、脚伸展筋力がMMSE23点以下への低下と関連が認められた。しかし、MMSE26点と27点以下への低下とは関連が認められなかった。女性においては全身反応時間と握力がMMSE23点と26点への低下と関連が認められた。特に、通常歩行および最大歩行の歩幅やスピードがMMSE23点および26点への低下と関連が認められたことは本研究の大きな特徴である。また、男女ともにMMSE23点への低下と関連している身体機能は全身反応時間のみであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の検討課題は、平成24年度の解析結果を踏まえて、全身反応時間を含めた身体機能と認知機能との関連について性別に分けて縦断的に検討することであった。ただし、認知機能には病歴や生活習慣、社会的要因など非常に多くの要因が強く関連していることが想定されるため、これらの解析にあたっては医師や心理学専門家の助言を得て、多要因を調整した縦断的解析を進めることであった。 NILS-LSAでは運動以外に心理・医学・栄養など多方面からの学際的研究を行っているため様々な背景因子を調整した解析ができる。この縦断解析では、全身反応時間が男女ともに認知機能低下の予測因子であることが明らかになり、認知症や軽度認知機能障害(MCI)に至る前に、一次スクリーニングの簡便な方法として性別を問わず全身反応時間は有用である可能性が示唆された。しかし、ほかの身体機能と認知機能低下との関連においては性差が認められたため認知機能低下の予測因子として身体機能を用いる場合は性差を考慮した解析が必用であると考えられた。この結果については論文執筆を行っており6月中に海外の雑誌に投稿を予定している。これらの成果から、本年度の研究計画を十分満たしているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は身体機能と認知機能との関連を調べ、身体機能により認知機能低下の予測が可能かどうかについて検討を行うものである。MMSEで計れるような認知機能項目と身体機能の間には性差が認められ、身体機能をスクリーニングのツールとして利用する場合は性差を考慮した解析が必用であることが示唆された。しかし、認知機能の評価項目として比較的精度が低いMMSEだけを用いた検討を行ったため、より客観的な評価指標による解析が必要であると考えられる。一方、先行研究では、認知機能の低下が身体機能の低下をもたらすという報告もあり、本研究においても検討課題として残る。NILS-LSAでは身体機能、認知機能障害スクリーニング検査、知能検査、さらに教育歴や生活習慣、血圧、頭部MRIなどの医学データが15年にわたる膨大なデータが蓄積されているため多方面からの検討が可能である。平成26年度には、身体機能と認知機能との関連において経時関係を中心とした検討を行う。また、医学分野での頭部MRI検査による脳萎縮度や白質病変などを有効に活用することで、認知機能に関するより客観的な検討ができると思われる。これらの結果を踏まえて最終年度(平成26年度)には、身体機能の測定数値から、何年後に認知機能や知能の各側面がどの程度低下するのか、そのリスクを推定するための式の作成を試みる。
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