研究課題/領域番号 |
24650457
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
坂上 真理 札幌医科大学, 保健医療学部, 准教授 (70295369)
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研究分担者 |
道信 良子 札幌医科大学, 医療人育成センター, 准教授 (70336410)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 認知症高齢者 / 作業科学 / 質的研究 |
研究概要 |
平成24年度は,言葉を用いて自己の状況を十分に説明できない中等度から重度の「認知症高齢者」に対する『生活再構築アプローチ』を開発するための基礎資料の提供に向けて,認知症対応型共同介護(以下,グループホーム)での調査と文献調査を実施した. 1)グループホームでの調査 調査への同意が得られたグループホーム2施設内の各1ユニットで研究代表者と研究分担者がそれぞれ定期的にフィールドワークを実施し,認知症高齢者の活動の発現と変容を明らかにするためのデータ収集を行った.収集したデータは,そこに入居する認知症高齢者,施設職員,調査中に施設を訪れた家族の日常生活場面の参与観察データ,施設職員への聞き取りデータ,介護記録であった.さらに,研究代表者,研究分担者,施設職員とでカンファレンスを定期的に開催し,収集したデータとそこから得られた知見についての意見交換を行った.以上のデータ収集と意見交換は,認知症高齢者が日常を過ごす居住環境の中でどのような活動を行い,その活動が居住環境との関わりの中で自分らしい生活を支える活動へとどのように変容していくかの過程に示唆を与えるものであり,さらにその人が積み上げてきたその人らしさと誇りある生活の構築を目指す『生活再構築アプローチ』の開発のための基礎資料として重要であった.さらに,研究代表者は,静岡県浜松市で行われた質的研究者と作業科学者が集まる研究会に出席し,本調査から得られた知見についての討議を行い,データ分析結果を深めるうえで重要な示唆を得た. 2)文献調査 これまでの認知症高齢者に対する支援方法をまとめ,生活再構築アプローチの方法論的示唆を得るために,認知症と作業に関する文献を収集した.これらの文献から得られる知見を分析している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)グループホームでの調査 平成24年度は,データ収集として,グループホーム2施設に入居する認知症高齢者(18名),施設職員(18名),調査中に施設を訪れた家族(のべ6名)を対象に,日常生活場面の参与観察データ,施設職員への聞き取りデータ,介護記録を収集した.研究代表者はそのうち,特に日常生活場面でなんらかの自発的な発言や行為が認められた4名について,a)認知症高齢者に対する職員の関わり方や物理的環境設定の違いによる活動の違い,b)認知症高齢者の環境への主体的な働きかけ,それに対する施設職員の関わりや居住環境の変化,環境の働きかけによる認知症高齢者の活動の経過,の2点を分析した.その結果,認知症高齢者の環境への主体的な働きかけに関する知見が得られ,成果報告のために「第47回日本作業療法学会(2013年6月,大阪)」の演題として抄録を提出し受理された.さらに,研究代表者と研究分担者は,変容過程に関する知見を得るために,詳細な分析をして,その成果を「Society for the Study of Occupation: USAの研究大会(2013年10月,USA)」と,「世界作業療法連盟世界大会(2014年6月,横浜)」で報告するための演題抄録を作成している. 2)文献調査 認知症と作業に関する文献を収集した.対象者の環境への働きかけを検討する際に必要な認知症の生物学的特徴,並びに活動の変容過程に関する理論的裏づけに必要な資料をこれまで得られたデータと照合しながら分析している.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,調査の継続としてグループホームに入居するより重度な認知症高齢者の調査と老健の調査,『生活再構築アプローチ』の開発に向けた試行と文献調査,海外研究者からの情報収集を兼ねた成果報告を行う. 1)より重度な認知症高齢者と老健の調査並びに『生活再構築アプローチ』の試行 平成24年度に調査を実施したグループホームに入居するより重度な認知症高齢者を対象に,前年度の参与観察データに基づき参与観察するポイントをより焦点化して調査を実施する.さらに,継続的な調査への同意が得られた老健1施設内の1認知症専門棟内で,平成24年度にグループホームで実施した方法を用いてフィールドワーク(観察,面接,資料収集)を実施する.分析は,平成24年度と同様の方法で,活動の変容過程に関わるパターンを抽出し,グループホームと老健の分析結果を比較する.また,平成24年度に調査を実施したグループホームで,得られた知見をもとに,先行して分析した対象者の中からモデルケースを選択し,ケアスタッフとリハビリテーションスタッフが協業し,認知症高齢者の援助計画を立案,施行,そのモニタリングを行い,『生活再構築アプローチ』の開発に向けた試行をする.また,ケアとリハビリテーション領域における認知症高齢者の理解のための方法論の相違を見出すための文献収集と分析を行う. 2)情報収集と成果報告 「Society for the Study of Occupation: USAの研究大会(2013年10月,USA)」と「世界作業療法連盟世界大会(2014年6月,横浜)」で成果を報告するための演題抄録を提出する.そのうち,2013年度内に開催される研究大会に参加し,海外研究者からの情報収集と意見交換を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
1)研究討議-データ分析の妥当性の確保と研究会への参加 質的研究,作業科学を行う研究者との研究会に参加し,データ分析結果の提示を行い,研究者との討議を通じて妥当性の確保を行う(研究討議のための旅費).平成24年度は,研究会2回の参加を予定していたが,調査によるデータ収集を優先させて1回の出席となり,「次年度使用額」が生じた.平成25年度は当該研究会の2回の参加を予定している.これ以外に,平成24年度に調査の進行に伴い,本研究をより進展させるために国外研究者との情報交換が新たに重要となった.現在対象となる国外研究者への情報交換の打診を進めており,討議を予定している(国際情報交換). 2)国内および国外の学会での中間報告ならびに成果報告と英文校閲 本研究で得られた知見は,国内のリハビリテーション(含む,作業科学,作業療法),ケア関連学会で成果報告を行う(研究成果発表のための旅費).また,国外で開催される「Society for the Study of Occupation: USAの研究大会(2013年10月,USA)」にて研究成果を報告する(研究成果発表のための旅費).また,国外での発表のため英文校閲を行う.
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