研究課題
挑戦的萌芽研究
平成24年度は、退院患者の栄養管理を、治療食宅配会社が病院から引き継いで支援する、「病院・企業連携医療による地域一体型栄養サポートシステム」の構築に向けて、病院および治療食宅配会社の各情報を一元管理するインターネット上のサイトを開設した。各施設に所属する管理栄養士が、容易に情報の取得および伝達を行えるユーザーインタフェースの利用により、退院患者の食事療法についての指示事項が、患者の同意のもとに治療食宅配会社に引き継がれ、病院に代わって支援する。具体的には、病院から発行される退院患者の栄養食事サマリー(申送書)を、インターネットのサイト上に保管する。サイト上では双方からのアクセスが可能で、随時情報を確認、更新することができるので、退院後の経過について治療食宅配会社が発行する栄養食事サマリーが、病院へフィードバックされる。サイト上の記録フォーマットについては、両者共通の様式および専門用語を用いる必要があり、第15回国際栄養士会議(2008年、日本)にて世界標準化が提唱された「栄養ケアプロセス」を採用した。「栄養ケアプロセス」とは、米国栄養士会が2003年に策定した、栄養専門職が栄養関連の問題に対処し、安全かつ有効で質の高い栄養ケアを提供するために、判断力とクリティカルシンキングをもって、体系的に問題を解決するための手法であり、今後の国内における栄養管理の主流となることが予想される。なお、栄養ケアプロセスにおいて使用する標準用語は、『Pocket Guide for International Dietetics & Nutrition Terminology (IDNT) Reference Manual:Standardized Language for the Nutrition Care process.)』から採用した。
2: おおむね順調に進展している
病院・企業連携医療による地域一体型栄養サポートシステムの構築のために整備した、コンピューターソフトの一次開発(試作版)が終了し、二次開発(改良版、製品化)が進行中である。現在、日本栄養士会および全国の管理栄養士・栄養士養成施設に周知するための論文を執筆中であり、1本目は、地域一体型栄養サポートシステムを推進するためのインターネットサイトについて、2本目は、同システムを利用した大学の授業への応用について報告する。インターネットサイトは、アメリカ栄養士会が策定し、世界各国への普及を目指している栄養ケアプロセスの記録フォーマットから構成されている。2008年に日本で開催された国際栄養士会議後、国内における普及を目指した動きは皆無だったが、2012年にようやく日本栄養士会より「国際標準化のための栄養ケアプロセス用語マニュアル(第一出版)」が翻訳出版された。これを機に、今後国内における積極的な普及が期待されるが、残念なことに、本書だけでなくアメリカ栄養士会が発行する原書にも、栄養ケアプロセスにおける専用の記録フォーマットが存在せず、問題解決の手順や使用される専門用語が記載されているのみである。自身が開発した記録フォーマットについては、栄養ケアプロセスの手順に従い、インターネット上に作成した。言語を変更すれば、国内のみならず、海外での使用も可能であることから、日本語と英語で作成する。また、独居高齢者の安否確認および栄養サポートに使用する、ハンディ・ターミナルを利用したソフトの開発については、利用する機器をスマートフォンやタブレット式パソコンに変更し、専用のアプリケーションを開発するよう計画を見直し、準備を進めている。
平成25年度は引き続き、病院・企業連携医療による地域一体型栄養サポートシステムの構築のために整備する、コンピューターソフトの二次開発を進め、製品化する。製品の開発過程および大学の授業への応用について執筆した論文を、会員数約6万人が購読する日本栄養士会雑誌と、国内における栄養ケアプロセスの普及のためにアメリカ栄養士会より教育研究部長を招聘し、国内で初めての研修会を企画した日本健康・栄養システム学会誌へ各々投稿する。研究協力者である、治療食宅配会社の㈱エム・シー・システムは、岐阜市・各務原市近隣の総合病院と既に連携医療を行っており、栄養管理システムが製品化され次第、この地域における実践をビジネスモデルとして、退院患者における食事療法の継続率や栄養状態を判定し、患者の利用満足度等を調査する。さらに、近隣地域の病診・地域間連携の現状や、本事業に対する関心度を調べ、対象地域の拡大に向けた可能性を検討し、第三次開発(二次開発からの修正版および英語版)を進め、国内外の学術総会および学会誌にて報告する。独居高齢者の安否確認および栄養サポートについては、スマートフォンやタブレット式パソコン専用アプリケーションの一次開発を進め、試作版を完成させる。研究協力者の治療食宅配会社における試作版の使用においては、独居高齢者とその家族の利用満足度や栄養・健康状態の推移をアウトカムとして評価する。モデル地域以外の治療食宅配給食会社における栄養管理の現状を調べ、本事業に対する関心度を調査し、同システムを共用する積極的な企業の参画と連携を目指す。
栄養管理用ソフトの三次開発費として\315,000、安否確認用ソフト(アプリケーション)の一次開発費として\630,000、試作版用のタブレット式パソコン3台分として\378,000、食事撮影用デジタルカメラ2台分として\42,000、モバイルプリンター2台として\63,000、栄養ケアプロセスの講習会費用として\50,000、ソフトの開発・保守・運用のための旅費(松本―岐阜間)6回分として\140,000を計上した。合計\1,618,000を使用する計画である。
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http://www.matsumoto-u.ac.jp/about/research/index.html