研究課題/領域番号 |
24650470
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡本 剛 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90432913)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 住環境 / 省エネ / 快適性評価 / 冷暖房 |
研究概要 |
東日本大震災以降の電力不足により、省エネルギー(省エネ)は我が国の緊急かつ重要なテーマとなっている。我が国の空調で最も普及しているエアコンは、家庭の消費電力の約1/4を占める「電気食い虫」であるだけではなく、冷風によって自律神経機能を乱す「冷房病」や温風による乾燥で喉を痛めるなどの健康被害を引き起こす要因にもなっている。 これらの問題を解決する冷暖房方式の一つとして、輻射熱の自然対流で室内の温度を調節する輻射式冷暖房システムがある。輻射式冷暖房システムは、低電力の「とろ火」による24時間運転で室温よりも少し低い冷温や少し高い温水を循環させるため、エアコンより30%以上の省電力化が可能であるが、その快適性に関しては科学的なエビデンスが得られていない。 そこで本研究では、生理心理学に基づく指標による快適性の評価法を確立し、エアコンと輻射式冷暖房システムの快適性の違いを評価するとともに、個人毎に最適化を行い省エネと快適性を両立する室内環境を実現することを目的とした。 上記目的を達成するため、平成24年度はまず研究体制を整え、実験環境を整備し、実験方法を設計し、夏期の冷房に関する快適性評価実験を遂行した。心理課題として時間知覚課題を設定し、課題前後および課題中の脳波と心電図を計測することをそれぞれの環境(エアコンか輻射式冷暖房システム)で5回ずつ繰り返し、12名の被験者による実験を完了した。 データ解析による指標作成および反復測定分散分析の結果、時間知覚課題、脳波、心電図の各指標で環境による統計的有意差が認められた。まだ冷房に関する実験結果のみであるが、省エネと快適性を両立する室内環境の実現に向けて大きく前進したと言える。平成25年度は、これまでの成果発表および追加実験を行い、個人個人に合わせた省エネと快適性を両立する室内環境の実現を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
快適性に関する科学的エビデンスを創出し、省エネと快適性を両立する室内環境を実現するという目的を達成するため、実験の計画、準備、実施、データ解析を行って成果を出したため「おおむね順調に進展している」と評価した。現在までに取り組んできた内容を以下にまとめる。 まず、平成24年度の研究実施計画に沿って研究体制を構築した。構成メンバーは、全ての研究を主体的に遂行する研究代表者1名、実験環境を提供する研究協力者1名(協力企業)、実験計測の補助を行う研究協力者1名(協力企業)とした。 次に、ノイズに強いアクティブ電極を用いる生体信号収録装置(Polymate II)を平成24年6月末に導入し、協力企業の所有するモデルルームを利用して実験環境を構築し、時間知覚課題と脳波・心電図の計測を組み合わせた冷暖房の快適性評価実験を設計した。実験方法は、課題前後および課題中の脳波と心電図を計測することをそれぞれの環境(エアコンか輻射式冷暖房システム)で5回ずつ繰り返すこととした。 そして、平成24年8月から9月にかけて冷房に関する快適性評価実験(予備実験3名、本実験12名)を行った。その後、独自のデータ解析プログラムを開発し、Polymate IIで収録した生データを解析し、課題、脳波、心電図に関する指標を作成した。これらの指標について反復測定分散分析を行った結果、課題、脳波、心電図の各指標で冷暖房システムの違いに関する統計的有意差が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は冷房に関する快適性評価実験を実施し、平成25年度に計画していたデータ解析の大半を前倒しで行った。脳波の周波数解析、心電図のR-R間隔に基づく心拍変動解析、時間認知課題の成績により生理心理学に基づく指標を算出し、統計検定によりエアコンと輻射式冷暖房システムとの間で有意差を認めた。 今後は、上記の冷房実験においてまだ解析していない物理データ(温湿度等)やアンケートの分析を進め、成果をまとめて学会等で発表する。さらに、暖房に関する同様の快適性評価実験を実施し、個人毎に最適化を行い省エネと快適性を両立する室内環境を実現を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は、主にデータ解析を一層進めるためのソフトウェア(数値計算プログラミング環境MATLABとそのオプション、統計解析ソフトウェアJMPなど)、成果発表に掛かる費用(学会演題登録費、学会出張費、英文校閲費、論文投稿料など)および実験の被験者謝金に使用する。
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