頭頸部癌患者における化学療法中の味覚異常の原因に、舌の味覚受容体発現の変化が影響しているのではないかと仮説立て、3年間にわたり、患者舌サンプルを用いて実証した。患者の舌より採取したmRNAをcDNAに変換し、うま味、甘味、苦味受容体の発現をリアルタイムPCRにて定量したところ、化学療法開始に伴いうま味、甘味受容体に共通のサブユニットT1R3は減少し、4週間後に化学療法開始前のレベルまで改善した。一方で苦味受容体T2R5の遺伝子発現は化学療法開始に伴い増加した。これらは患者の味覚検査の結果のうま味甘味閾値の上昇とは一致していたが、苦味閾値の上昇とは一致していなかった。しかし、患者の自覚症状であった自発性異常味覚(悪味)の訴えとは一致しており、口の中に苦味を感じるのは、T2R5の増加によるものであると考えられた。 うま味、甘味閾値の低下を抑制することができれば、患者の味覚異常を改善できる。そこで、患者が好む味の共通点にだしのきいているものが多いことにもとづき、グルタミン酸を強化した食事を提供した。化学療法1クール目でT1R3が低下した患者の食事に、グルタミン酸を強化すると、2クール目でのT1R3の減少は認められなかった。これらのことから、化学療法により味覚異常を呈した患者にうま味成分を強化した食事を提供することは、患者がおいしく食べられるというQOLを上昇させるのみならず、味覚受容体遺伝子発現そのものを制御し得ることが明らかとなった。
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