研究課題/領域番号 |
24650491
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研究機関 | 名寄市立大学 |
研究代表者 |
西村 直道 名寄市立大学, 保健福祉学部, 教授 (10341679)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ペクチン / メタノール / 腸内細菌 / 大腸 |
研究概要 |
ペクチンの異なるメトキシ化度と生体に遊離するメタノール量との関係性を明らかにするため、メトキシ化度の異なるペクチン(メトキシ化度24 (LMP)および55 (HMP))を5%添加した飼料を7日間ラットに与え、メタノール動態を調べた。ペクチンは78%エタノールで脱糖して用いた。 ペクチンを与えたラットの(呼気+放屁)メタノール量排出は、コントロール群より有意に高く、経日的に増加し続けた。また、高メトキシペクチンを与えたほうが低メトキシ度ペクチンを与えたラットよりもメタノール排出量が有意に高かった。門脈および動脈血中のメタノール濃度は、コントロール食群(0.0 μmol/L)に比べペクチン摂取群で有意に高く、LMP食群で45.7μmol/L、HMP食群で485μmol/Lだった。動脈血でもメタノールが検出されたことから、大腸でペクチンから遊離したメタノールが呼気や放屁から排出される速度が遅いことが示唆される。しかし、メタノールの酸化物であるギ酸はほとんど検出されなかった。これはげっ歯動物の場合、葉酸代謝速度が速いため、ギ酸の分解が速やかに行われるためであると考えられる。盲腸内容物中の遊離メタノール濃度とペクチン結合型メタノール濃度を調べると、全メタノールに対する遊離型の比率はLMP摂取ラットで約10%だったが、HMP摂取ラットでは約60%であった。このことから、HMPのほうが生体内にメタノールを遊離しやすい可能性が考えられる。 次にHMP摂取時に活性化される腸内細菌を調べるため、16S rDNA PCR-DGGE法で盲腸内容物中の細菌叢を解析した。その結果、HMP食によってE.coliが特異的に増加していることが確認された。 以上のことから、高メトキシペクチンの摂取は特異的にある種の腸内細菌を活性化し、メタノール遊離を促進し、メタノールを生体内に供給する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペクチンがある種の腸内細菌によって分解され、メタノールを遊離することはわずかに報告がある。しかし、ペクチンを摂取した場合に、大腸内でメタノールが遊離し、生体内に供給されるかはまったくわかっていなかった。これを証明することが本研究の第一の目的であるため、平成24年度を終了した時点での達成度は概ね順調に進展していると考えている。 ただし、in vitro実験によるメタノール生成速度などメタノール遊離に関する詳細についてはまだ手がつけられていない部分も多い。その点は平成25年度に早急にとりかかる予定である。しかし、ペクチンからメタノールを遊離させる細菌について偶然にも特定しつつあり、当初予想していた以上にこの点は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本来の計画では、生体内におけるペクチンからのメタノール遊離を抑える発酵制御に関して検証を進める予定であった。しかし、平成24年度の研究より想定していたよりも多くのメタノール遊離量が認められたため、この遊離メタノールによって生体に与える影響をラットで検証する必要性がある。しかし、げっ歯動物では葉酸代謝速度が速いため、メタノール酸化物で毒性を示すギ酸の分解が速い。そこで、ラットの葉酸代謝をメトトレキサートで阻害し、葉酸欠乏食を与えることで、ヒトと同様のギ酸代謝速度を有するラットを作成する。その後、それを用いてペクチンより遊離したメタノールによる影響を検証する。これらの実験と発酵制御に関する実験およびin vitroにおけるペクチンからのメタノール遊離速度を検証する実験を同時に進めることにしている。これによって、より研究を進めることが可能となる。また、今年度に予想以上の達成を示した内容があるため、次年度に実施する必要がなくなった実験もある。この時間を利用して一部遅れている内容について検証を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
In vitroペクチン発酵におけるメタノール遊離速度の検証 ラット盲腸内細菌叢を用い、ペクチンをジャーファーメンターで嫌気発酵する。経時的に培地を採取し、メタノール生成量を調べる。これによってペクチンからのメタノール遊離速度を明らかにする。さらに、前年度に高メトキシペクチン摂取ラットでE.coliの活性化が認められたので、E.coliによるペクチン発酵を行い、メタノール遊離に対する影響を調べる。また、抗菌スペクトラムの異なる抗生物質を用い、高メトキシペクチンのin vitro発酵を行う。培地に抗生物質を添加し、ペクチンからのメタノール遊離度を検証し、このときの培地中細菌叢の変化を調べる。 メトトレキサート投与による低葉酸代謝モデルの作製とそれを用いたペクチン遊離メタノールによる生体への影響 メトトレキサート投与によって葉酸代謝を阻害し、さらに葉酸欠乏食を与えることでギ酸分解速度を抑えたモデルラットを作製する。尿中ホルムイミノグルタミン酸を測定し、その増加により葉酸欠乏状態を確認する。また、このラットにペクチンを与えたときの生体内へのメタノール遊離とギ酸生成量の関係、および網膜および肝臓における炎症や抗酸化関連遺伝子の発現変動を明らかにする。
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