妊娠中の母親の薬剤利用や喫煙等の習慣は、胎児の健全な発育や機能に多大な影響を及ぼすことが広く知られている。ならば、身体に有益な「機能性成分」を妊娠中の母親が日常的に摂取し続けると、外的刺激に敏感な胎児や乳児に対して、益性/毒性問わず何かしらの影響が現れる可能性がある。本課題では、食品由来の抗酸化成分等の機能性成分を母体が妊娠期間中に摂取していると、生まれてくる子どもは酸化耐性能を獲得することができるのか、またその結果、様々な疾患に対する耐性を身につけることができるのかを、二つの被験試料を用いて動物試験により探究し、次の成果を得た。 1. 母体が摂取した代表的な抗酸化成分の一つであるアントシアニンは微量であるが、胎児へ移行する。 2. アントシアニンを含む食餌で妊娠ラットを飼育したのち、母体と胎児の肝臓中の様々な遺伝子発現量を比較測定したところ、胎児においてのみ脂質代謝系に顕著な変動が見られた。一方、抗酸化系には顕著な変化は見られなかった。 3. 抗酸化成分を豊富に含むニガウリを被験試料とし、その混餌食を妊娠マウスに与えたところ、母体の肝臓ではトリグリセライドの生合成系を制御している遺伝子発現が顕著に変動したのに対し、胎児では見られなかった。 以上の結果より、母体が摂取する機能性食品成分は胎児に対して作用を示すものと示さないものが存在しており、その作用は母体よりも胎児で顕著に表れる成分もあると考える。その変化は、脂質代謝系に顕著にみられており、抗酸化系への作用は小さいようであるが、結論を導くためには更なる研究が必要と思われる。また、胎児に作用する成分については、さらに成長後にどのような変化がみられるのかについて、現在追跡中である。
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