これまで、成長期からのCa摂取不足が成長後の脂質代謝や体脂肪蓄積に及ぼす影響について検討してきた。その結果、Ca摂取不足によって骨重量の低減、肝臓への脂質蓄積による肝臓重量の増加が確認できた。しかし、体脂肪の蓄積量については、低Ca食群のラットの食餌摂取量が減少したため、摂取エネルギーによる影響が大きいと考えられた。そこで、平成26年度に低Ca食群を基準としたpair-feed給餌法を用いて、以下の2つの実験条件で動物飼育を行った。平成27年度は、26年度に飼育して採取した試料の分析と解析を実施した。 実験1では、離乳直後の3週齢ラットを2水準の飼料中Ca含量(0.5%または0.1%)および2種類の乳たんぱく質(カゼインまたはホエイ)を要因とする計4群を設定した。0.5%Ca食は、標準Ca食で、0.1%Ca食は低Ca食となる。さらに、現代日本人の栄養摂取状況から実験期間を通して脂質エネルギー比30%の高脂肪食とした。その結果、これまでと同様に低Ca食のラットは標準Ca食のラットに比べて、空腹時の血中遊離脂肪酸濃度が高く、肝臓への脂質蓄積量が有意に増加した。さらにホエイの摂取によるHDL-コレステロール濃度の上昇も確認した。 実験2では、学童期は学校給食での牛乳摂取によりCa摂取量が比較的補償されているが、15歳以上になるとCa摂取量が大幅に低下する現代日本の栄養状況をモデル化し、成長期には標準Ca食、成長後の10週齢から低Ca食に切り替え、実験1と同様に脂質代謝に及ぼす影響について検討した。その結果、低Ca食のラットに内臓脂肪重量の増加、肝臓脂質の蓄積量の増加、空腹時の血中TG濃度の上昇、HDL-コレステロール濃度の低下等、生活習慣病発症リスクを思わせるネガティブな影響が確認された。 以上、一連の実験により、Caの摂取不足は肝臓への脂質蓄積を引き起こすことが明らかとなった。
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