マウスの行動解析および脳内ストレスマーカー候補遺伝子の発現解析を行った。水侵ストレスを24時間負荷(ストレス群)後、香り充満環境(ストレス+コーヒー群)で90分間飼育した。高架式十字迷路試験では、ストレス+コーヒー群のオープンアーム滞在時間がストレス群より有意に増加したことから、コーヒー豆の香りは抗不安作用を有することが示された。ストレス+コーヒー群の海馬における分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼホスファターゼ-1(MKP-1)遺伝子発現量はストレス群に比し有意な増加を示した。海馬のMKP-1は炎症マーカーとして有用である可能性が考えられる。海馬の神経成長因子受容体(NGFR)遺伝子および中脳のNGFR、活動依存性細胞骨格関連蛋白質(Arc)遺伝子発現量も、ストレス+コーヒー群においてストレス群より増加傾向を示した。コーヒーの香り存在下でヒト(大学生、計12名)にストレスを負荷(30分間の計算)した後、白血球のMKP-1遺伝子発現を測定した結果、MKP-1遺伝子発現はストレスによって増加傾向を示し、コーヒー豆の香りによって抑制される傾向が認められた。また、様々なアロマがマウスの行動および脳内遺伝子の発現に及ぼす影響を明らかにした。 3年の研究期間において、げっ歯類の行動解析および脳の解剖学的解析や脳内遺伝子・蛋白質発現解析により、香りのストレス抑制効果を明らかにすることが出来た。脳内メカニズムの解明には至っていないが、香りが種々の脳内遺伝子・蛋白質発現を変化させることを見出したのは新規な成果である。今後、特に海馬におけるストレスと炎症マーカーの関係を明らかにする必要がある。ヒトでの解析については、今後、ストレス負荷条件を検討すると共に被験者を増やす必要があると考える。 上記研究結果に基づき、香りと不安行動および脳内遺伝子の発現に関する内容を学会および国際誌に発表した。
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