本研究は、我が国の理科教育の文化的背景の一つとして、仏教の影響を探るものである。具体的には(1)どのような局面にどのように仏教の影響が見られるのかを定量的に探った。その結果、実験観察の場面、自然に対する態度、教授の方法など幅広く仏教の影響が確認された。また、子どもに対する態度、自他の関係性、教育観、世界観という因子があることが明らかになった。(2)伝統的な理科授業実践から導き出された理念の中に、日本的な仏教思想の影響を探った。特に、筑波大学附属小学校で長年にわたり初等理科教育を牽引してきた故・丸本喜一氏に焦点をあて、氏が遺した資料を整理し「拝育」という概念を探った。1430枚のOHPシート(すべて)、小学校6年生の授業テープの一部(11巻)、5000枚と見積もられている単語カードの一部(10箱中4箱)などを整理しデジタル化した結果、各地の講演会で使用したOHPシートの中に仏教に関係したものが7枚発見された。そこでは、道元、親鸞など、既存の著作の中に見られるものの他に、橋田邦彦、岡現次郎の名前が見られた。資料は膨大なため、整理は道半ばである。また、丸本喜一氏も関係したNHK教育テレビ「理科教室」にも仏教思想の影響を探った。人形の声を担当された方にインタビューを実施することができ、その生き様に「無」を目指したという証言が得られた。(3)持続可能な社会を目指す理科教育実践の指針について探った。一つの回答として、多文化主義の時代にあり、文化的背景を自覚した上での教育活動、特に、西洋・非西洋の文化的接点に位置付く科学教育に於いては、教師一人一人の自覚が重要であることが示唆された。この点については、国内外の学会で発表した。
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