研究課題/領域番号 |
24650518
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
土橋 一仁 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (20237176)
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研究分担者 |
松本 伸示 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (70165893)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 温室効果 / 地球温暖化 / 理科教育 / 科学教育 |
研究概要 |
本研究の目的は、温室効果を実験室で再現するモデル実験を開発することである。地球温暖化の主要因として、今や温室効果は極めて重要なキーワードとなっている。しかし、その原理は正しく理解されておらず、むしろ誤った理解が社会に浸透しつつある。これは、温室効果の原理を正しく学習するための適切なモデル実験が存在しないためである。ここ3年間ほど、我々は温室効果を再現するための実験器の開発にチャレンジしてきた。この間、開発を成功させるための問題点を洗い出し、そのほとんど全てを解決することができた。本研究では、残る最後の問題「透明な地球大気のモデル化」を解決し、実験器の完成を目指す。本研究が成功すれば、世界の科学教育・環境教育に大きなインパクトをもたらすものと確信する。 開発中の実験器で問題があるのは、空気箱と呼んでいる部分である。これは、真空に保たれた実験器の中心付近に設置された容器で、内部に1気圧の空気または二酸化炭素を封入するためのものである。実験中は空気箱内外に1気圧の圧力差がかかるが、現行の空気箱はこの圧力差に耐えられず、空気漏れを起こしている。平成24年度の研究目標は、(1)空気箱の密閉度を高め、この圧力差に耐えられるよう空気箱を改良し、さらに、(2)それを用いて実験器全体を完成させ温室効果実験を開始すること、の2点であった。実際には、(1)の空気漏れ問題の解決に手間取り、(2)の実験器の完成および実験の開始という目標までは達成できなかった。 (1)については、M8の強力なネジで空気箱の蓋を9カ所固定する等の改良を行ったが、なかなか直ぐには解決できず、結局、素材をアクリル製からステンレス製に変更し、さらに可能な部分は全て溶接するなどの工夫をした結果、年度の終盤になってようやく空気漏れのない空気箱を実現することができた。平成25年3月現在、この空気箱の耐久試験を行っている状況にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が計画よりやや遅れているのは、空気箱の改良が予想以上に困難であったからである。空気箱の材料としては、観察者(児童)が中をよく見れるようにするため、透明なアクリル(厚さ約2っcm)を採用していた。しかし、岩塩等の窓材(赤外線でも可視光でも透明な素材)をはめ込むための窓付近からの空気漏れがひどく、平成24年度初頭に、留め金であるパッチンの数を増やしてみたが効果は薄かった。また、M8のステンレス製ネジを多数使用して窓を固定する試みも行ったがそれでも不十分で、実験を繰り返すうちに空気箱の材料であるアクリルに亀裂を生じるというトラブルもあった。当初は半年程度でこの空気漏れ問題を解決する計画であったが、予定の期間を過ぎても十分な結果は得られなかった。そこで、空気箱の材料も見直すことにした。メーカーの技師と相談し、空気箱全体をステンレス製にすることにした。さらに、窓材の部品点数も減らし、可能なものは本体に溶接した。空気箱を含め実験器全体が既製品ではなく特注であるため、設計や打ち合わせを含めた製作にかなりの時間を要した。このことが、計画全体に遅れ(4ヶ月程度)を生じさせた原因である。しかし、空気箱の成否は研究計画の要であるため、根本的に解決しない限り先へは進めない。また、この程度の遅れはある程度予想していたため、2年間の研究計画に大きな支障とはなっていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度初頭に、改良した空気箱の耐久試験(空気漏れのチェック)を徹底的に行う。現在は窓材のダミーとしてアルミニムの板を装着しているが、空気漏れの問題が十分解決できたことを確認してから、岩塩を装着する(岩塩は湿度対策が難しく、空気漏れの状態で使用するとすぐに曇ってしまうため)。その後、装置の内部全体をアルミ箔で覆い熱シールドし、さらに地面に見立てた銅板(黒く塗装)に熱電対を装着して、実験開始の準備を進める。温度の読み取りは、Macintosh上で稼働する専用のソフトウェアを用いる。太陽に見立てた光源としては白熱電球またはハロゲンランプを用いる予定であるが、この実験では、その光出力を高い精度(0.5%以下)で制御する必要があるので、100Wの直流安定化電源を実験に投入する。さらに、大型のフリーザーを設置し、実験器全体をマイナス40℃に冷却する。7月までには定常的な実験を行えるよう、以上の機器の準備・整備を進める。 温室効果を直接検出するための実験は、8月から10月にかけて集中的に行う。二酸化炭素と窒素を交互に空気箱に入れ、光源からの光を照射した時の銅板の平衡温度の差を定量する。装置の外壁をマイナス40℃、光源の光出力を10W(変換効率10%)とすると、空気箱を1気圧の二酸化炭素と窒素で満たした時の温室効果による温度差は0.5℃程度になるものと予想している。本実験では、まずこのレベルの温度差を安定して検出できる実験システムの構築を行う。平成25年度の終盤には、学校教育等で使える普及型の実験器の設計・試作に取り組みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画がやや遅れたことにより、当初予定していた平成24年度中の実験やそのデータの整理・解析を、翌年度に延期せざるを得なくなった。よって、そのための人件費・謝金および関連する研究打ち合わせのための出張も、平成25年度に行うことにした。これらの経費は、実験が本格化する平成25年8月頃より、集中的に使用する予定である。また、地球物理学を専門とする研究者より、本研究で開発する実験器に対する意見や助言を得ることも必要である。このための、太陽地球環境研究所(名古屋大学)等を訪問することを計画している。さらに、本研究で開発する実験器を理科教育のための具体的な実験器として改良する際には、太陽放射の地球大気による吸収量や、放射冷却に関する実測データもセットで紹介すれば、より高い教育効果が得られるものと考える。このため、高地にある天体観測施設等を訪れ、太陽放射の吸収量や放射冷却のデータも取得する予定である。 さらに、実験を円滑に行うためのパソコン、データ取得用の専用ソフトウェア、実験記録用のカメラ・ビデオ等を、7月~8月頃を目処に購入する。
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