研究課題/領域番号 |
24650522
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
岩瀬 峰代 総合研究大学院大学, 学内共同利用施設等, 講師 (30155048)
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研究分担者 |
奥本 素子 総合研究大学院大学, 学内共同利用施設等, 助教 (10571838)
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キーワード | 対話的手法 |
研究概要 |
本研究では、研究者の文化を発信するために、研究者だけでは気付かない研究者の文化的背景を、芸術家が市民の視点から研究者と対話することにより明らかにしていく。その後、芸術家は、研究者との価値観や視点を作品という形で可視化し、社会に発信する。 本研究では実践における研究者と芸術家の作品制作、その制作過程のモデル化、出来上がった作品の伝達効果の検証を実施する。 研究者と芸術家の作品制作においては、対話、制作、展示の実践を繰り返し、その中から改善を見出し、改善点を踏まえ実践に生かすという、アクションリサーチと呼ばれる手法を用い実施していく。このような実践を研究結果に直接結び付け、研究結果を実践に直接応用する手法は、実践的に社会で起きている問題解決のためには、有効な手段であるとされている。具体的には、制作過程の記録、アーティストへのインタビューを行い、それらの記録から困難場面、創出場面を抽出し、研究をアートにする際に必要な支援や場面、条件の整理を行う。 上記の実践活動を時系列に分析し、そこでの活動の内容を明確化することにより、制作過程のモデル化を行っていく。その際、社会学で用いられるデータから理論を構築するグランデッド・セオリーアプローチという手法を用い、分析していく。 本研究伝達効果の検証においては、実践場面での検証と、被験者を用いた比較実験による検証を行う。実践場面での検証では、本研究で制作された作品を展示し、作品の伝達効果の検証を行う。作品展示場所は、葉山町公共施設や周辺地域の公共施設を予定している。被験者を用いた比較実験では、通常の視覚表現で用いられる標本画像と、今回の展示の表現の画像とを比較実験し、質問紙等で被験者が受けた印象や内容への理解を測定し、比較し、従来の手法との違いや効果差について検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は平成25年度に下記のような研究を実施した。 *新たな作品の制作:25年度は、新たに作品展示とその場でのコミュニケーションから生まれる科学リテラシーの萌芽を検証した。原発の風評被害で客足が減少した福島県土湯温泉町で行われている芸術祭、土湯アラフドアートアニュアルにおいて、芸術家と共同で研究者と一般の来場者の見え方の差を話す「差室」という建築作品を作成した。「差室」では、大学院生が科学者の世界の見え方を話す「差の湯」の会というサイエンスカフェを行い、そこでの対話場面を天井カメラから記録した。 *これまで制作した作品の展示:これまで制作した作品は、下記のように展示され、そこではアンケート調査を行った。 「2013年5月9日~10日 葉山芸術祭において総研大の研究者とアーティストが共同で制作したアート作品展「Resonance」を逗子文化プラザで展示」「2013年9月6日~10月14日 土湯温泉町におけるアラフドアートアニュアルにて展示」「2013年12月3日~5日 分子生物学会年会アート企画に出展」 *伝達効果の検証:また24年度は文系大学生を対象に、アート作品の画像と研究紹介イラストを見せ、実験者がそれぞれの作品の説明を1分程度行った。その後、絵画とイラストの主観評価を質問紙で調査したところ、絵画のほうが説明を易しく感じ、生物が進化する過程への興味も引き起こしたことが明らかになった。今後は、自由記述の分析を含めて、本展示手法の評価を行う。加えて、3回に分けて実施された展示では、一般来館者と研究者に鑑賞後のアンケートを行った。一般来館者からは新鮮だという声が聞かれ、研究者からはアウトリーチとしての新規性を高く評価された。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度中、研究を実施して抽出された研究課題は以下の2点である。 課題1:アート作品の伝達検証・・・これまで質問紙で行ってきたアート作品を使った伝達検証であるが、より詳細な分析のため、質的データを用いてその伝達過程を検証していく。 課題2:アート作品を通したコミュニケーション活動の検証・・・アート作品を展示するだけでなく、アート作品を媒介としたコミュニケーションにおいて一番科学者の視点は伝わることがこれまでの観察から明らかになった。そこで本研究ではアート作品を媒介にしたコミュニケーション活動を記録し、そのインタラクションを分析することによって、アート作品が科学情報伝達に与える効果を検証していく。 課題1:研究方策・・・本年度予定されている神奈川県真鶴町での展示において、被験者を用いた参与観察を行い、その後インタビュー調査を行い、科学情報の伝達過程を明らかにしていく。 課題2:研究方策・・・アート作品を媒介したコミュニケーション活動のインタラクション分析から、アート作品を利用することにより、科学者は科学情報をアナロジーを利用して説明することが分かった。そこで、本研究では、どのようなアナロジーを用いてコミュニケーションを促進させているのかを分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度に行う予定であった展示を用いたサイエンスカフェを次年度に行うことになったので、当該年度に使用することが出来なかった。 7~8月に作成した作品の展示を行うとともに、8月初旬にサイエンスカフェを真鶴にて開催する予定になっている。
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