平成26年度は,研究の最終年度になることから,音楽教育における遠隔セッションの意義や具体的なモデルをまとめた。本研究における遠隔セッションとは,光回線などの高速通信ネットワークで複数の地点を結び,一緒に演奏活動を行うことである。演奏という行為は,同一空間で同一時間に演奏することにのみ,その意義があると考えられがちであるが,19世紀後半に蓄音機が発明されてからは,演奏者と聴取者が同一空間で同一時間に存在しなくても音楽を鑑賞できるようになったことと類似しており,テクノロジーの進化とともに新しい演奏表現のスタイルへと発展していく可能性がある。音楽教育の具体的な場面では,これまでの学校の音楽室という壁を越えて,学校外の人と一緒にセッションができるという点にメリットがある。特に,山間地の小規模校では生徒数が少ないことから,大規模校と接続することにより,多くの人たちと一緒に演奏する機会が限られている。そのような場合に遠隔セッションが有効な手立てとなりえる。また,県外の学校とのセッションや海外の学校とのセッションは,それぞれの地域に伝わる音楽文化を紹介したり,それらを学びあったりし,最終的にセッションすることで音楽の魅力を深化させることができる可能性がある。具体的なモデルとしては,MIDI対応の楽器(MIDI対応のピアノなど)をネットワークで接続してのMIDIデータの送受信によるセッションと,歌声や生楽器の音声をオーディオデータとして送受信する方法がある。平成26年度の実験では,仮想遠隔セッションを設定し,和楽器を使った遠隔セッションやジャンベなどの民族楽器を使った遠隔セッションを試みた。演奏時の脳活動を簡易NIRSで測定したところ,前頭前野については,遠隔セッションと対面セッションの酸素化ヘモグロビン濃度の違いはみられないことが明らかとなった。
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