本研究は、知的障害のある学習者のための新しい教科書アクセシビリティ項目の提案を目的とした挑戦的萌芽研究であった。「教科書は学習者が能動的に使うもの」という従来のパラダイムから離れ「能動的に学習者に向かい合う教科書」という新たなコンセプトの実現の可能性についてパーソナルロボットを用いて検討した。初年度には、知的障害のある学習者のための新しい教科書アクセシビリティについて、知的障害教育における動機づけの観点を重視したアクセシビリティ項目(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン (WCAG) 2.0の「知覚可能」、「操作可能」、「理解可能」、「互換性・堅牢性」ばかりでなく、米国のCASTが提唱する「学びのユニバーサルデザイン」の「行動表出(Action & Expression)」と「取組(Engagement)」の原則を重視して作成)を提案し、本年度は、初年度に提案した新しい教科書アクセシビリティ項目を教科書のコンテナとなる装置(既存のパーソナルロボット)の機能をもとに、その具体化を検討した。今回の研究でプラットフォームとして採用した日本電気株式会社製パーソナルロボットPaPeRo R500を用いて、既存のデジタル教科書、パワーポイント教材を実装することを想定して動作確認を行った。実際の教室場面を想定する場合には、デジタル教科書のテキストの読み上げ音声と学習者及び教師の発語を区別する機能が必要であることなど、適用の際の課題についても検討した。
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