イスラームが深く関係する国々のなかで、中東地域のエジプトと東南アジア地域のインドネシアを主な調査対象地として、日々変化する現代社会のなかで伝統的な宗教や信仰上の価値観がどのような作用を担っているのかを分析の主眼とした。 エジプトでは、ウラマー(宗教的知識人)にとって、伝統的な宗教の知識やその教育は当然ながら重要視されていた。しかし、最新の科学技術については、両義的あるいは等閑視などの消極的な傾向が認められた。これに対してインドネシアでは、宗教的知識人とそれ以外の知識人を含めて、伝統的宗教の知識だけでなく現代科学も等しく重要視する姿勢は共通しており、エジプトの場合との顕著な相違を認めることができた。 伝統的信仰に基づいた価値観によって、企業活動や技術教育、社会奉仕活動など現代のさまざまな社会生活が活性化されることで、イスラーム的市民社会(ムスリム社会)が開花しつつあるインドネシアの文化的・社会的な背景を確認することができた。一方エジプトの場合、インドネシアの場合と同様に信仰と科学を重視する思想は、過去の歴史研究としてその存在は指摘されてきたが、現代社会においてそれが十分に認められなかった理由について、今後の研究課題として追求する必要性を確認することができた。
|