研究課題/領域番号 |
24650583
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
栃内 文彦 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (50387354)
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キーワード | 科学史 / 文化資源統合アーカイブ / 地質学史 / 坪井誠太郎 |
研究概要 |
本研究の目的は,近現代科学史資料の体系的・効率的な収集・保存のための方法論の確立に向けた実践的考察を,東京大学大学院情報学環社会情報研究資料センター(以下,「センター」)収蔵の地質学者・坪井誠太郎に関する資料(以下,「坪井資料」)の分析によるアーカイブ化の試みを通して行なうことである.平成25年度の研究実績は以下の通りである: 1)坪井資料の概要調査: 全資料のうち調査未着手の資料(全体の約3割)の概要調査を行い,一部を除き概要調査を完了させた.さらに,坪井誠太郎に関する新たな資料が発見されたので,その資料の概要調査を追加で実施した. 2)資料価値の高い資料の抽出およびその内容の分析:坪井誠太郎の日本地質学界に及ぼした影響の大きさを定量的に検討できる資料が見出されたため,坪井資料の有用性を示す一例として分析した.その内容は本研究の中間報告として,論考をセンターの『社会情報研究資料センターニュース』第24号に掲載した(pdf版のurlは<http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/24-1.pdf>). 3)坪井資料アーカイブの検討:連携研究者と,科学コミュニケーションについて高度な知見を有する科学史研究者とともに,研究費などの制約条件を踏まえてどのようなアーカイブの構築が可能かを検討した.検討の結果,センターが構築し運用するデジタルアーカイブ「デジタルカルチュラルヘリテージ」上を活用すること,資料概要をデータベース化して先に公開すること,を基本方針とすることとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の当初の研究計画は,1)坪井資料の概要調査を平成24年度に引き続いて行い,資料価値の高い資料を抽出するとともに抽出された資料のデジタル化を進めることと,2)資料の質的分析を進め,アーカイブの要件定義を行うこと,だった. 資料の質的分析やアーカイブ設計については,本研究の当初計画で予定していた内容とは若干異なる方向に研究が進んでいる.その要因は,調査対象の坪井資料の内容が,予想以上に豊かであり,質的分析に着手する前に,定量的な調査を十分に行うべきであると判断したこと,新たに資料が発見されたこと(その調査を行ったこと),坪井資料のアーカイブ化に際して予算的な制約条件などを考慮する必要があることである. しかしながら,「研究実績の概要」で述べたことから分かるように,当初計画と若干異なる方向に研究が進んでいるとはいえ,当初計画で掲げた2点を十分に踏まえた研究となっている. 以上により,現在までの達成度は「概ね順調に進展している」と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の平成26年度においては,これまでの研究の進捗状況を踏まえて研究を実施する.具体的には: 1)坪井資料の詳細調査の実施:膨大な資料全ての詳細調査を平成26年度中に行うことは不可能なので,定量的な分析を行える資料(フィールドノート,論文などの草稿類,など)や坪井の研究に直接関わる内容の手紙類などの資料の調査を重点的に行う. 2)坪井資料目録データベースの作成・公開,および,資料価値の高い資料のアーカイブ化(「デジタルカルチュラルヘリテージ」への搭載):概要調査の報告として,坪井資料の目録データベースを作成し公開する.また,『センターニュース』掲載稿で紹介した資料など,資料価値の高い資料をアーカイブ化する(「デジタルカルチュラルヘリテージ」に搭載する). 3)本研究から得られつつある成果の発表:研究目的「近現代科学史資料の体系的・効率的な収集・保存のための方法論の確立に向けた実践的考察」を踏まえ,坪井資料調査から得られた知見などを国内外の学会で発表する.発表を予定している学会は,日本科学史学会(国内.5月(確定).科学史の観点から),INHIGEO(国外.7月(確定).地質学史の観点から),科学技術社会論学会(国内.11月(予定).科学史を含めたSTSの観点から)である.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定では,概要調査を終えた資料について,アーカイブに搭載すべく,デジタル化や文書データのテキスト起こしの大量の業務を外注する予定だった.しかし,概要や達成度評価で述べたように研究内容を若干変更したことにより,外注可能な定型的なデジタル化やテキスト起こしの業務がなくなった. また,昨今の経済状況から,最終年度の学会発表や資料調査のための出張旅費の増加が予想されたため,当該年度の支出を抑制し,最終年度に繰り越すこととした. 以上により,所定の次年度使用額が生じた. 上記の次年度使用額を併せて,最終年度の直接経費は90万円弱となる.既存のデジタルアーカイブ「デジタルカルチュラルヘリテージ」を用いるため,アーカイブ経費は発生しない.また,アーカイブに搭載する内容は,資料データベースがメインとなるため,デジタル化などの業務の外注に伴う費用も発生せず,殆どを学会発表の諸費用,および,学会発表と資料調査のための出張旅費として使用する予定である. 具体的には,3件予定している国内の学会発表に約25万円,1件予定している海外(米国)の学会発表に約33万円,6~7回を予定している資料調査に約30万円の支出を見込んでいる.
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