青銅器の放射性炭素年代測法を確立するためには,三種の課題を解決する必要がある.一つ目は,青銅器に発生した緑青から炭素を抽出する「緑青の化学処理法の開発」である.二つ目は,緑青に含まれる炭素が形成時の大気中炭素を保持していることを示す「緑青の安定性の実証」.最後に考古学的年代既知の青銅器資料への適用による「青銅器に対する放射性炭素年代測定の有効性の実証」である. まず,硫酸銅と炭酸ナトリウムの反応を利用して,処理法の開発に必要となるDead carbonに富む緑青を合成した.この緑青を用いて,緑青から炭素を二酸化炭素の形で抽出する条件を求め,真空中において250℃以上かつ1時間以上加熱することで,緑青中の炭素が二酸化炭素に変換されることが判明した.以上の結果を元に,「パイレックス管中に緑青を真空封入し,250℃で2時間加熱し,二酸化炭素に変換する.次いで,この二酸化炭素を精製し,水素によって還元することで年代測定用のグラファイトを合成する」という「緑青の化学処理法」を開発した. 和歌山県日高川町道成寺に伝わる銅鐸に付着した緑青について,上記の調製法を適用し,グラファイトを得た.この銅鐸の考古学的な年代は弥生時代後期である.一方,緑青について得られた放射性炭素年代は241~324[cal AD]と,弥生時代後期から古墳出現期にかかる年代であった.また,孔雀石・藍銅鉱について放射性炭素年代測定を行い,検出限界以下の結果を得た.故に,この銅鐸に最初に発生した緑青がそのまま現在まで残っているという「緑青の安定性が実証」された. 上述の道成寺銅鐸,有珠オヤコツ遺跡出土鐔,古代中国爵,出雲大社垂木先金具といった考古学的年代既知の青銅器資料の放射性炭素年代から「青銅器に対する放射性炭素年代測定の有効性を実証」した.
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