研究課題
挑戦的萌芽研究
失われた古代掘立柱建物の在りし日の姿を精緻に再現・復元するためには,柱穴から得られる情報を最大限に活かして上部構造物の規模を的確に推定することが重要である。本応募課題の目的は,これまで柱穴の径や柱間距離から経験的に類推してきた掘立柱建物の規模を,地盤工学分野の最新の成果を活かして確かな力学理論に基づいて予測する新しい手法を開発することである。原理は至って簡単で,地盤の密度(土粒子の詰まり具合)と粒度(土粒子径の分布)には過去に受けた最大の応力履歴が色濃く反映されることを利用して,柱穴地盤の密度・粒度の現地調査,圧縮性・破砕性に関する室内試験および密度と粒度の変化を考慮した最新の土の力学モデルによる解析を組み合わせて,往時の構造物の自重を逆算するという方法である。奈良県桜井市纒向遺跡で発見された3世紀前半の大型建物跡は同時代の構造物としては国内最大級で,柱穴が計画的に配置された掘立柱建物として最古の例であることから,邪馬台国の有力候補地として注目を集めている。これまで邪馬台国の所在地論争は,魏志倭人伝の解釈と考古学的知見の両面から行われてきたが,近年は客観的事実である後者に基づく議論が盛んで,遺跡の年代や規模,構造物の大きさや建築様式,土器等の出土資料の量と質が重要な論拠となっている。まず発掘調査により遺跡の規模や出土品の量と質が明らかにされ,その後,主に層序や他の遺構との切り合い関係,出土する遺物から年代を推定する。最近では,木の年輪幅の違いを利用した年輪年代測定法など科学的手法も用いられている。一方で,在りし日の建物の姿は,柱穴の径や間隔をもとに建物の規模を類推して経験的に復元しているのが現状であり,確かな理論に基づいて掘立柱建物の大きさを推定する手法はまだない。これに対して,平成24年度は粒子破砕現象と密度変化を考慮した土の構成モデルの開発・検証・改良に取り組んだ。
2: おおむね順調に進展している
本研究の課題名であり,最終目標でもある「掘立柱建物の在りし日の姿の地盤力学的推定法の開発」を達成するためには,粒子破砕現象と密度変化を適切に考慮した土の構成関係とそれに基づく初期値・境界値問題の数値解析手法が必須である。初年度は着実に検討を進めて,粒子破砕現象と密度変化をよく再現する構成モデルの開発に成功しており,計画は順調に進んでいる。
研究目的を達成するために,次の手順を実施する:(A) 掘立柱建物の柱穴およびその周辺地盤の土試料の採取と密度・粒度試験;(B) 現場で採取した土試料の室内力学試験とパラメータの同定;(C) 粒子破砕現象を考慮した掘立柱の2次元支持力モデル実験と,密度と粒度の変化を考慮した土のモデルに基づく地盤解析コードの検証;(D) 実際の掘立柱建物の柱穴を対象とした数値シミュレーションと掘立柱建物の規模推定,および既往研究との比較による提案手法の検証H24年度は(C)の土のモデルの開発・検証・改良に取り組んだが,今年度は開発したモデルを組み込んだ有限要素解析コードの開発を行い,粒子破砕現象を考慮した数値解析手法を完成させる。
該当なし
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Geosystem Engineering
巻: 16 ページ: 796-805
10.1080/12269328.2013.780733
http://www.cvg.ynu.ac.jp/G3/MamoruKikumoto/index.html