研究課題/領域番号 |
24650590
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小泉 圭吾 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10362667)
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キーワード | センサネットワーク / 環境モニタリング / 保存科学 / 無線 / アドホック / マルチホップ / 温度 / 湿度 |
研究概要 |
大地震や気象変動による文化財の短期・長期的な劣化の進行過程を捉えるためには周辺の微気象環境データをリアルタイムかつ継続的に収集する必要がある。石造遺跡においては、乾湿繰返し、凍結融解による風化、劣化予測が緊急の課題である。屋内美術品に着目すると、繰り返される入館者の体温、発汗による温湿度の変動、或いは収蔵庫内の温湿度変動など、劣化、損傷の危険性とは常に隣合わせの状況にある。現状ではデータロガー,毛髪計による環境観測が行われているが、前者はデータを蓄積するだけ、後者は物が大きすぎるため、実現象をタイムリーかつ精度よく捉えられないのが現状である。本申請研究ではこれらを解決するために、ユビキタスネットワーク技術による、文化財保存のための環境観測用のスマートダストを開発する。当該年度の研究計画とその成果は次のとおりである。 計画1):H24年度に開発したプロトタイプにより、臼杵石仏を対象とした環境観測システムを試験導入する。成果1):臼杵石仏では冬季の凍結融解に対する風化、劣化の影響を低減するために、東京文化財研究所により覆屋による対策が実施されている。本研究では開発した観測機器を導入し、冬季の覆屋内と覆屋外の温湿度差をリアルタイムに観測できる環境観測システムを開発し、現地で試験運用した。 計画2):H24年度に開発したデータ回収率を向上させたセンサノードにより博物館内の展示室、収蔵庫内にて実証実験を行う。成果2):当初H24に開発したデータ回収率を向上させたセンサノードによる通信試験を行うことを計画していたが、リトライ数の改善によるデータ回収率の向上が電池寿命の低下に大きく影響を及ぼすことがわかった。そこで、当初開発方針を修正し、H24年度に開発したプロトタイプにメモリ機能を実装し、リアルタイム無線通信とデータロギングの両機能を有するスマートダストのプロトタイプを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた臼杵石仏群において、凍結融解を対象としたリアルタイム環境観測システムを導入し、冬季の低温時における温度変化を遠隔からリアルタイムに観測できることを確認した。また、博物館を対象に無線によるデータ回収率を向上させた機器の改良に取り組んでいたが、視点を変え、データの欠損はロガー機能を実装することにより解決し、無線通信によるリアルタイムデータ収集機能と、データロガー機能の両面をあわせ持ったスマートダストの開発を行うことができた。一方、当初予定していた長距離無線通信用のモジュールのリリースの遅延により、屋外向けの長距離通信試験を行うことができなかった。ただし、この無線モジュールリリースの遅延という外的要因以外では、当初予定を満たす開発が行えたことから、上記の区分に評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1)屋内文化財向けの開発推進方策 今年度開発した無線通信によるリアルタイムデータ収集機能とデータロガー機能を両立したスマートダストの実運用における課題の抽出および改良を行い、博物館における環境観測手法の提案を行う。 2)当初予定していた長距離通信用の無線モジュールのリリースが未だ未定の状況である。そこで本研究ではこの無線モジュールの通信試験ではなく、本年度、臼杵石仏群に試験導入した観測システムを実運用に近い状態にまで改良する。ここでは冬季の低温時をモデルとし、保存に携わる関係者が遠隔からいつでも石仏の状態が観測できる観測手法の提案を行うことを最終課題とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初購入を予定していた長距離通信用の無線モジュールのリリースが遅れており、それを用いた機器開発および実験の費用が未使用となったため。 臼杵石仏群に試験導入した観測システムを実運用に近い状態にまで改良する。そのための出張旅費および開発費とする。またその成果発表のための交通費として使用する。
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