本研究の目的は,高感度な超伝導磁力計(SQUID)による非破壊検査を青銅文化財の考古学研究のツールの一つとして提案することである。青銅には不純物としてPb,Fe,Ni,Sbなどが含まれており,それらの分析を通じて作製場所や年代などを比定する研究が行われているが、従来青銅器の不純物分析には原子吸光/発光分析や蛍光X線分析などが利用されてきた。しかし一部サンプルを採取する場合もあり破壊的な手法であることは否めない。 一方、青銅器内に含まれる磁性体に着目すれば磁場による非破壊分析にも意味が見出せる可能性がある。例えば,不純物の量や分布を反映すると思われる残留磁場や渦電流による分析結果を元に比較・分類などができれば製造環境や製錬技術の発達過程などを詳しく研究できると期待される。本研究では、SQUID グラジオメータとXYステージを組み合わせた微弱磁場スキャニング計測システムを開発し,青銅鏡における磁場分布の計測を試みることで提案手法の有効性を検証した。 開発したSQUIDグラジオメータはベースライン3mm,検出コイル1.5mm×1.5mm,磁場分解能は約10fT/√Hz/mm@whiteで,青銅鏡表面に対して垂直方向の磁場成分をスキャン計測することができる。実験では、直径約82mm,厚さ約8mm(縁高)の中国青銅鏡(年代不明)をスキャン計測し、磁場分布のマッピングを行った。その結果、±100nT程度の磁場パターンが確認され,本手法が青銅鏡の磁場分析に利用できる可能性があることが確認できた。また、今回の実験手法は青銅鏡に限らず土器片や木片など他の考古遺物の残留磁場計測にも応用できることが期待される。
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