• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2012 年度 実施状況報告書

高分子有機化合物で構成された文化財の劣化機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 24650593
研究機関(財)元興寺文化財研究所

研究代表者

植田 直見  (財)元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2014-03-31
キーワード有機質文化財 / 高分子有機化合物 / 劣化 / TG-DTA-PIMS / 出土琥珀 / 分子構造
研究概要

高分子有機化合物で構成された有機質文化財は長い年月の間に化学的、生物的、物理的な変化が起こり、その結果として劣化が進行する。その機構や要因を追求するためには劣化を分子レベルで追及することが必要であり、劣化生成物のモノマー単位での分子構造を推定することを検討した。
そのために、今回は新しい分析方法として質量分析法の一つである示差熱天秤-光イオン化質量分析(TG-DTA-PIMS)を実施した。化学の分野でこの分析法は、高分子有機化合物に関して他の質量分析法で得られたデータが非常に複雑で解析が難しいのに比べ、分子を複雑なフラグメントまで壊さないで質量分析ができ、モノマー単位での分子構造を知ることができる方法として注目されている。
しかし、これまで保存科学の分野で材質同定に用いられたことはない。初めての試みとしてこの分析方法を導入し、望む結果が得られれば、これまで解明できなかった劣化生成物の分子構造を決定、劣化機構を明らかにし、劣化要因(紫外線・熱・水分・酸素・微生物など)を決定できると考えた。その上でより影響の大きい要因を取り除くことで貴重な文化財を長く残すことが可能となり、さらに新たな保存方法の開発においても重要な役割を果たすと思われる
24年度はほぼ単一の高分子有機物で構成される琥珀に絞り分析を実施した。琥珀に関してはこれまでにも様々な分析を実施し、多くのデータの蓄積があるが、その中で今回初めてTG-DTA-PIMSにより標準試料を分析した。測定条件としては熱分析の結果を基に加熱温度を決定した。また、すでにモノマー単位の分子構造が判明しているバルト産琥珀も同様に測定し、それらの結果と比較することで分子構造を推定する試みを行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

24年度はほぼ単一の高分子有機物で構成される琥珀に絞り分析を実施した。これは琥珀をこれまでに様々な方法で分析しており多くのデータを蓄積しているため、より解析がし易いと考えたからである。特にモノマー単位の分子構造が判明しているバルト産琥珀を同様の条件で測定し、比較することで分子構造を推定する試みを行った。
まず得られたそれぞれの産地の琥珀の質量分析におけるフラグメントをバルト産琥珀のそれと比較し琥珀を構成する高分子の基本構造を推定した。その結果と今回の分析結果を比較し、久慈、銚子産琥珀について分子構造を推定した。その結果これら全て同様な分子構造を有していることが推定されたが、日本産琥珀はバルト産で観察されたピーク以外にそれぞれ異なったピークが得られた。このことは久慈市、銚子市の琥珀の生成年代なども考慮するとさらに複雑な高分子構造をとっている可能性が推測された。しかし、基本となる分子構造の推定においては高分子化前の分子構造の推定が可能な状況となってきた。
24年度はさらに琥珀を紫外線や熱で劣化させたものについても同様に分析を行う予定であったが、標準資料の分析と解析に時間がかかり、さらにバルト産琥珀との関係について評価するのに時間がかかったことが原因で劣化促進実験を行った資料については、TG-DTA-PIMSによる分析の実施まで至らなかった。さらに、琥珀についての分析は24年度で終了する予定であったが、結論を得るにはさらに分析を追加し実施する必要があることも分かった。

今後の研究の推進方策

24年度は出土琥珀に絞りその劣化機構の解明に努めた。しかし、結論を得るまでにはさらに分析が必要なこともわかった。そこで25年度も琥珀に関しては継続して劣化促進後の資料の分析と解析、さらには琥珀を構成する低分子成分を有するコーパルなどの樹脂等も分析し低分子レベルでの分子構造、劣化による化学変化を追及したい。そのためには新たに標準資料の点数を増やす必要が生じ、さらに多くの資料の分析が必要となる。そのため、当初4種類の材質について分析を行い高分子有機化合物で構成された文化財全般的な劣化機構の解明や劣化要因を導く予定であったが25年度も琥珀に絞り研究を進めたい。琥珀の劣化機構が解明できれば同様の方法で他の材質も進めることができると考える。最終的には高分子有機化合物で構成された文化財全般における劣化機構および劣化要因を明らかにしていきたい。

次年度の研究費の使用計画

25年度も資料の採取のため、また情報収集のための旅費と24年度の成果を学会で発表するための旅費が必要となる。なお、物品費は主に分析のために必要な消耗品やデータ処理や管理のための消耗品費で高額の備品の購入予定は無い。
さらに今年度もTG-DTA-PIMSによる分析はできるだけ数多く実施したい。そのため、その他の項目である外注に掛かる費用の割合が高くなると思われる。
なお、24年度は12,040円が差額として残ったがこれはその他の項目の外注費において、当初の予定より若干費用が安くなったためである。この費用は25年度もその他の費用として最も費用のかかる分析費として支出する予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2012

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 様々な分析法により推定される出土琥珀の分子構造2012

    • 著者名/発表者名
      植田直見、渡邊緩子
    • 学会等名
      日本文化財科学会第29回大会
    • 発表場所
      京都大学
    • 年月日
      20120623-24

URL: 

公開日: 2014-07-24  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi