最終年度である今年度も琥珀に絞り研究を進めた。これは琥珀の分析結果が非常に複雑で解析に多くの時間を費やす可能性が考えられたためである。昨年度から今年度にわたり多くの国内産の標準資料を熱分解-ガスクロマト/質量分析法の一方法である示差熱天秤-光イオン化質量分析により分析を行った。さらに今年度は検出法を光イオン化法だけでなく電子イオン化法でも行い両者を比較することでより詳細な分子構造の同定を進めた。 その結果、それぞれの産地毎での測定結果は良い一致を見せたが、複雑なピークとなりその全てを解析することは非常に難しいことががわかった。また、劣化した琥珀についても同様に分析を行ったが、より多くの複雑なピークが得られたため、劣化によって分子構造が変わることは確認できたが、分子構造の推定にはさらに多くの時間と基礎データが必要なことがわかった。なお、劣化要因としては光による劣化の進行は熱や酸素などより、より大きな影響を与えることが熱分解-ガスクロマト/質量分析だけでなく赤外分光分析や熱分析からもわかった。 さらに、劣化により低分子化した琥珀の分子構造や重合前の分子構造の推定を進めるためには起源となると考えられている植物から得られた樹液や高分子化の途中段階であるコーパル樹脂も同様に分析することが必要であり、実施した結果琥珀と同様に数多くのピークが観察された。これらについては多くのテルペン類を同定することが出来た。 なお、劣化した琥珀は350℃と550℃での熱分解においてより多くのピークが観察されたが、特にラブダン型ジテルペンに由来する分子構造が確認できたことから、これらが基本骨格となり、劣化によって基本骨格は維持したまま低分子化が進み、さらに酸化によって官能基が変化することが推定できた。今後、これまでに分析した結果をさらに詳細に解析し劣化による分子構造の変化を明らかにして行きたい。
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