研究概要 |
博物館実習講座「ため池を探る」を実施し,三田市の環境条件の異なる6個のため池,およびキリンビール神戸工場ビオトープ池,また絶滅リスク軽減のため試験放流した小学校ビオトープ二か所で,受講者とともにカワバタモロコの個体群変動を標識再捕法で10年以上追ってきた.同時に,これらのため池の物理化学的要因と捕食者候補であるトンボヤゴやスジエビなど水生動物相とその密度や水生植物相とその被度など,ため池調査法(田中2005)に従いため池の生物群集の全体像を把握してきた.その結果 ①ため池は河川や湖より水温や溶存酸素量の季節変動や日変動の極めて大きい過酷な水域であり,繊細な環境条件を要求する生物が住める環境ではない,したがってカワバタモロコ生存の可否は物理化学的要因ではなく,池の生物群集構成によって決定されている可能性が高い(田中2010a・2010b).②魚類空白のため池への新規導入という操作実験により,カワバタモロコは競争種また捕食者が存在しない池では,推定産卵数の半数が翌年に成魚になるという驚くべき初期増殖能を有する(田中2010a).しかし水草が消滅した池では,個体数が徐々に減少し絶滅に近づく. 魚類空白のため池への新規導入1年目はきわめて高い増殖率を示すが,2年目以降は増殖率が急激に減少することが明らかになった.導入1年目と2年目以降とで大きく変わる生物的環境要因はカワバタモロコ自身の密度.ここで2年目以降の減少とそれに続く絶滅は,カワバタモロコ自身の卵捕食(カニバリズム)ではないかという予測がたつ.しかしながら水中ビデオによる卵捕食の実態を捉えることには失敗した.また日本全国にまたがるカワバタモロコのmtDNA分析によるハプロタイプ分析を行い遺伝的多様性を考慮した「遺伝的放流適池」のガイドラインを策定した.
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