研究課題/領域番号 |
24650599
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 兵庫県立人と自然の博物館 |
研究代表者 |
加藤 茂弘 兵庫県立人と自然の博物館, その他部局等, 研究員 (50301809)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地震断層 / 防災教育 / 地学教育 / 台湾 / 中華人民共和国 |
研究概要 |
明治以降の内陸大地震で出現した地震断層の中で,国の天然記念物に指定されて保存が図られた丹那断層,郷村断層,根尾谷断層,野島断層の保存・活用の現状を調査した.これらのうち後三者は地震断層が屋内で保存・公開され,根尾谷断層と野島断層では地震と断層について学習できる施設が造られている.丹那断層では丹那断層公園が整備され,地震断層を掘り下げたトレンチ展示や北伊豆地震と丹那断層の説明パネルがある.野島断層では保存や修復が毎年行われ,郷村断層では世界ジオパーク加盟後に,施設整備や案内看板等の整備が進んだ.丹那断層では継続的整備は無く案内や説明パネルに劣化が目立つが,いずれも地震断層を後世に残す役割が果たされていることがわかった. 一方で,これらの地震断層が防災教育や環境学習の一環として利用される機会は少なかった.野島断層,根尾谷断層や丹那断層では近隣の小学3~6年生が環境学習や総合学習で利用するのみで,市町村や県での活用例はない.郷村断層では教員の観察会や勉強会が行われ,生徒の学習機会を増やす試みを行っている.丹那断層はジオパークガイド養成講座の対象となったほか,静岡大の地学研究会などが地学教育の場に利用している.このようにジオパークでは,地震断層が防災教育や地学教育に活用されつつあることが浮き彫りになった.これに対して,根尾谷断層観察館や野島断層保存館などの見学施設は開館時から来館者が減少を続けており,教育機会の減少の直接的要因となっていた.後者では「語り部」事業が震災記憶継承のため行われているが,ともに地震断層の見学が主で防災教育・地学教育に関わるソフト事業がほとんど無く,他の自然・文化遺産との連携を図り来場者を増やす工夫も無かった.これらから地震断層を防災教育や地学教育に活用するために,地域が一体となって取り組むこととソフト事業の展開が重要であることが再認識された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度は,国の天然記念物に指定された丹那断層,郷村断層,根尾谷断層,野島断層,千屋断層の保存・活用の現状を調査する予定であった.丹那断層,根尾谷断層および野島断層の調査は予定通り行ったが,千屋断層の現地調査はできていない.郷村断層では保存状況の現地調査を行った.しかし,教員の観察会や勉強会などの活動を具体的に聞き取りや実見するには至っていない.地震断層を活用した防災教育や地学教育の検討は,野島断層保存館における野島断層親子体験教室で試みた.小学生を主対象にワークシートを利用した野島断層保存館の見学会と,淡路島で恐竜化石やアンモナイト化石が産出することに関連して化石のレプリカ作りや紙模型の恐竜ハット作りを行った.以上から,国内の地震断層を対象とした研究の達成度は70%程度と判断している. 次年度に調査を予定していた台湾では,1999年集々地震時に台中県竹山地区に出現した地震断層のトレンチ断面を保存・公開する竹山車龍甫断層保存館の建設と整備が開始されたため,トレンチ壁面の保存・修復の指導を兼ねて現地調査および情報収集を今年度から行った.台湾では,台中県霧峰地区に地震断層と断層運動で倒壊した中学校校舎等を保存・公開する921地震教育園区がすでに開館しており,防災教育や環境教育に関するソフト事業を展開している.これらの2施設は国立自然科学博物館の野外公園(ミュージアム・パーク)に位置づけられたが,施設の設置目的と開館までの過程,各施設の維持管理計画および将来の方向性など,野島断層保存館や根尾谷断層観察館など日本国内の類似施設との比較研究において重要かつ基本的な情報を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
国指定天然記念物となっている野島断層,郷村断層,根尾谷断層,丹那断層,千屋断層の5つの地震断層について保存・活用の現状調査を進め,その結果を整理して防災教育・地学教育における保存地震断層の意義と効果をまとめるとともに課題を抽出する.初年度の調査では,地域と一体となった地震断層の活用と,防災教育や地学教育を進める上でのソフト事業の展開および教材開発の2つが,大きな課題として浮かび上がった.前者を研究期間内で検討することはむずかしいため,初年度に実施した野島断層保存館における野島断層親子体験教室を例として後者の試行を進める.3年間の試行を通して地震と断層,津波を題材としたいくつかの体験型教材を企画,作成するとともに,保存地震断層を自主的に学習できるワークシートを完成させる.郷村断層では,現地の教員が進める観察会や勉強会などの活動内容を調査し,他の地震断層保存地域での参考資料となるように取りまとめて報告する. 台湾の地震断層では,921地震教育園区と竹山車龍甫断層保存館の2地域の地震断層の保存・公開施設を調査する.両館は国立自然科学博物館のミュージアム・パークとなり,観光などまちづくりの一端を担う働きが期待されている.このため,地震断層の保存・活用だけでなく,自然学習の推進やまちづくりの中での役割と方向性などの広範な視点からの現地調査を進め,日本で保存・公開されている地震断層の現状との比較研究を進める.一方,中国四川省で発生した四川大地震による地震断層は保存・活用事例が無く,地震で大被害を受けた都市をそのまま保存・公開する地震博物館を調査する.事前情報では防災・地学教育より被災地復興のための観光施設として発展しており,その視点から日本および台湾における地震断層との比較を行いたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はまず,今年度に実施できなかった千屋断層の保存・活用の現状調査を行う.千屋断層は秋田県北部の山間地域に位置し,丹那断層や郷村断層のようなジオパークとはなっておらず,その活用は村おこしのための観光資源の一つとしての意味合いが強い.こうした立地環境の違いに関する情報収集と考察を行った上で,現状調査を効果的に進める.郷村断層では,現地の教員が主体になって進める観察会や勉強会などの活動内容を調査する.また,今年度の調査で地震断層を活用した防災教育や地学教育の推進に教材開発が重要であることが確認された.次年度は地震と断層,津波を題材にした体験型教材を新たに考案,作成し,野島断層保存館における野島断層親子体験教室などで試験実施する. 今年度に事前調査を行った台湾では,まず2013年春に開館した竹山車龍甫断層保存館を調査する.本館は,防災教育や環境教育を進める921地震教育園区との違いを明確にするため地震と断層の科学を普及する地学教育に力を注いでおり,そのための展示内容やソフト事業を中心に調査する.また巨大なトレンチ壁面を展示・保存しており,その手法を日本におけるトレンチ展示(野島断層保存館や根尾谷断層観察館など)の手法と比較したい.ジオパークとして活用が図られている郷村断層や丹那断層とそうではない根尾谷断層や野島断層との比較からは,地震断層が防災・地学教育の推進に資する必要条件として,多くの見学者が訪れて地震と断層に関する知識に触れる機会を増やすため,地震断層がある地域を一体として整備することがあげられた.竹山車龍甫断層保存館と921地震教育園区は国立自然科学博物館のミュージアム・パークとなり,観光などまちづくりの一端を担う働きが期待されている.このため行政やまちづくり関係の研究協力者を加えて広範な視点から現地調査を進め,日本で保存・公開されている地震断層との比較を行う.
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