研究課題/領域番号 |
24650599
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研究機関 | 兵庫県立人と自然の博物館 |
研究代表者 |
加藤 茂弘 兵庫県立人と自然の博物館, その他部局等, 研究員 (50301809)
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キーワード | 地震断層 / 保存と活用 / 防災教育 / 地学教育 / ジオパーク / 国際情報交換 / 台湾 |
研究概要 |
国指定天然記念物に指定されて保存と活用がなされている日本の地震断層の中で,秋田県千屋断層の現状を調査した。地震断層見学ルートは整備されているがトレンチ地点は保護のため埋められたまま放置され,地元教育委員会の社会学習で年1回程度の見学会を行うのみであるなど,保存・活用は調査した5つの地震断層中で最も遅れていた。このように所在地の自治体規模が小さいと,ソフト面も含めて県や国の援助が必要であることが浮き彫りとなった。一方で,同様な状況にある丹那断層や郷村断層ではジオパーク内のジオサイトとして防災教育への活用が図られており,ジオパークの有効性が再認識された。また地震断層を活かした防災学習に有効な教材として,「動く断層ペーパークラフト」に加えて「断層ドミノ」を考案し,野島断層親子体験教室など3か所で実践した。実践にあたり,天然記念物である明治以降の地震断層だけでなく,868年播磨地震を起こした山崎断層など,歴史地震を起こした活断層を対象に加えることや,そうした活断層のある自治体の図書館と連携して防災学習会を行うことを試みた。断層ドミノは,海溝型巨大地震の特徴を直感的に理解する助けとなり,低学年の子どもにも親しみやすいことから,南海トラフ巨大地震へ備える防災学習にも活用できる。最後に,台湾の2か所の地震断層保存施設を調査し,地震災害だけでなく洪水や地滑り・崩壊などの土砂災害,環境汚染などの多角的な視点から来場者への防災教育プログラムを行っている現状がわかった。しかし,国の機関であるという制約もあって地域との結びつきが弱く,地域住民の防災学習の場として十分に活用できていないなどの問題も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
秋田県千屋断層の現状を調査し,調査密度に濃淡はあるものの,対象とした国内5か所の地震断層全ての現状調査を完了した。わずか5つの地震断層であるが,保存施設やジオパーク活動の有無,立地自治体の規模等により,防災教育や地学教育への活用に大きな違いがあることを明らかにできた。防災教育に必要なソフト事業は,野島断層親子体験教室を軸に山崎断層など明治時代以前の地震断層に広げることや,施設のない地域でも図書館と連携することにより,効果的に展開できた。この実践に合わせて,断層ドミノなどの教材開発も進められている。台湾地震断層の保存・活用の調査では,921地震教育園区など国施設における保存・活用状況や防災教育の実践の現状に加えて,大規模地滑りや被災建築物等を保存する国・県レベルの公園などの存在と分布,保存・活用の現状を知った。台湾での情報収集で,中国の四川地震後における地震断層の保存・活用や防災教育の推進は行われておらず,北川地震博物館は経済復興に資する観光資源であることが確認された。このように調査と実践は進んでいるが,成果の取りまとめと報告が遅れており,80%程度の進捗と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
日本国内で調査した5つの地震断層と,台湾の地震断層(車龍埔断層)の保存・活用の現状を確認できたので,その整理とともに防災教育・地学教育への展開に向けた課題を検討・報告する。また,これまでの調査資料に基づき,地震断層保存館のある日本の野島断層と台湾の車龍埔断層の比較を行い,地震災害に対する両国の考え方の違いや,先行する野島断層の保存・活用施策が後者に与えた影響を検討し,防災教育や地学教育の推進にとってより効果的な地震断層の保存・活用方法を提案する。とくに台湾中部は,地震断層等の保存・公開施設とそれらを指導・管理する国の自然科学博物館が近接し,周辺には被災建築物や地滑り・崩壊地を保存・公開する公園も散在する。顕著な活断層運動や地殻変動が直接,間接にもたらした自然環境が広がり,それと結びついた生業や文化が発展している。これらを有機的に結び付け,台湾中部での防災教育・地学教育を主眼としたジオパークを構想・提案することを目標に,施設と地域住民との関わりの調査や,地形・動植物等の自然環境や地震災害と関連した歴史建築物や街並みの抽出を進めていく。一方,中国四川省の地震博物館は,震災からの経済復興資源として別の観点からの研究対象であると考え,阪神淡路大震災後の野島断層保存館や東日本大震災後の三陸海岸地域との比較研究を構想していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
日本と台湾における地震断層の保存・活用に対する考え方や手法の違いを具体的に知るためには,日本人研究者の一方向的な現地調査では不十分であると考えた。このため,台湾で地震断層の保存・活用に関わってきた台湾人研究者等に日本の代表的な保存・活用事例(屋内保存・公開した野島断層とジオパークでの活用が図られている郷村断層)を視察して頂き,それらに対する感想と意見を聞き取り調査する必要が生じた。これら研究者等の招聘にかかる旅費等を少しでも充足させるため,次年度使用額を残した。 平成26年度は下記の計画である。1)台湾車龍埔断層の保存・活用施設等について,博物館等の運営とジオパーク的活用の観点から現地調査を行う。調査は研究代表者と,博物館学,ジオパーク,街づくりが専門の研究協力者3名と行う。これに旅費と通訳謝金等を使用する。2)開発教材を用いて淡路島の2地区で防災教育ワークショップを行う。実施に旅費と補助員の賃金,物品費を使用する。3)2015年1月の北淡国際活断層シンポジウムに台湾921地震教育園区の研究員もしくは解説員とその開設を進めた大学教員を招聘し,合わせて野島断層や郷村断層の現状見学と聞き取り調査を行う。招聘旅費とシンポジウム参加費を使用し,これらの一部に次年度使用額を充てる。4)日本の5つの保存地震断層の調査成果を論文化する。野島断層と車龍埔断層の比較調査の成果は,台湾での国際シンポジウムや日本活断層学会秋季大会で発表する。後者に旅費を使用する。
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